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日本初の製造販売承認を受けた自家培養表皮で
再生医療の産業化に挑戦

知財を強化して新事業開拓に取り組むジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
[2008/11/06]

J-TEC代表取締役社長の小澤洋介氏
  J-TEC代表取締役社長
小澤洋介氏

 バイオ・ベンチャーであるジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(本社:愛知県蒲郡市)が,自家培養表皮「ジェイス」で厚生労働省から製造販売承認を受けた。「ヒト細胞・組織を利用した再生医療」分野では日本初となる。現在は保険を適用するための“保険収載”を待っている状態である。同社は,“再生医療の産業化を図る”という目標を定め,“コア技術+研究機関からの技術移転”で事業を推進している。ジェイスが同省の製造販売承認を受けるまでの同社の活動と今後の展開について見ていく。

(まとめは品田茂=日経BP知財Awareness編集)



自家培養表皮「ジェイス」が間もなく上市
 2007年10月,ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)は,重度の熱傷患者向けに開発した自家培養表皮「ジェイス」の製造販売承認を厚生労働省から受けた。「ヒト細胞・組織を利用した再生医療製品」分野では日本初となる。
 2007年11月には,保険収載のための“保険適用希望書”を同省に提出,1年経った現在も協議が続けられている。「通常,ジェイスが薬事法上区分されるC区分は,希望書提出から5カ月程度で保険収載の可否の結果が出る。ジェイスの保険収載に時間がかかっているのは,先進的な製品だからである。厚労省ではさまざまな角度から議論されている」とJ-TEC代表取締役社長の小澤洋介氏は語る。保険が適用されれば,患者の経済的負担が大幅に軽減され,ジェイス普及に弾みがつく。J-TECは,厚生労働省から求められた追加資料を提出済みであり,重度の熱傷患者にジェイスが適用される日は近い(図1)。

  ジェイス
ジェイス

 図1:バイオ産業における時間軸
図1
(J-TEC提供) 


ティッシュ・エンジニアリングの世界的権威との出会いが原動力
J-TECの母体は,レーザー手術装置・診断機器・眼内レンズなど眼科医療機器の開発・製造・販売をしているニデックである。1995年頃,ニデックは新事業を模索しており,当時名古屋大学が主催していた「臓器工学研究会」へ参加した。そこで出会ったのが,同研究会を主宰していた名大医学部教授の上田実氏である。上田氏は口腔粘膜細胞を使った皮膚の培養技術を研究していた。ティッシュ・エンジニアリング(tissue engineering:組織工学)といわれる学術分野である。
 その技術と市場の成長性を感じたニデックは,再生医療を新事業と定めた。しかし,同事業はニデックの経営資源の範囲を超えていた。そこで,点眼薬で協業していた富山化学工業と,臓器工学研究会に参加していたINAXにニデックへの再生医療事業への参画と出資を募った。さらにセントラルキャピタル(現,三菱UFJキャピタル)が加わり,1999年2月に4社の共同出資でJ-TECを設立した。その後,医薬品医療機器総合機構(注1)(現,独立行政法人医薬基盤研究所)から助成金を得た。J-TECは,事業の立ち上げを軌道に乗せるために,ニデック,富山化学工業,INAXから,人材・機器類・情報などの提供を受けた。
 上田氏は,“表皮幹細胞生物学”の世界的権威である米Harvard University医学部教授のHoward Green氏から,再生医療の研究に不可欠なフィーダー細胞(注2)である3T3-J2細胞(注3)の提供を受けていた。J-TECは上田氏からGreen氏の紹介を受け,3T3-J2細胞の提供をはじめ多くの技術を導入した。「Green氏からの技術移転が創業当時のわれわれの原動力となった。2008年5月,海外展開を含む将来の事業展開に助言をいただくため,Green氏に当社の技術顧問に就任していただいた」(小澤氏)。

再生医療の産業化は企業の参加が不可欠
  J-TECは,東京女子医科大学病院などでの治験(臨床試験)を経て厚労省からジェイスの製造販売承認を受けたが,製造販売承認を受けるまでには2つの壁があった。それが(1)製造設備,(2)病院との表皮細胞の受渡方法,である。
 (1)に関しては,製造販売承認の“製造”の部分に関する問題である。ジェイスの原材料は患者個人の正常な皮膚細胞である。同じ原材料は1件もない。異なる原材料で品質と安全性を担保しながら同じものを繰り返し作ることが求められる。製造設備は承認の必須条件である。J-TECは,日本で唯一の細胞利用製品の製造に適したGMP設備(注4)を整えた(2008年10月時点)。
 (2)に関しては,製造販売承認の“販売”の部分に関する問題である。ジェイスは“生きた細胞”である。機能する温度は10〜25℃と範囲が限られており,かつ2日強しか機能を保つことができない。輸送会社にとってこの条件で生きた細胞を運搬することは経験がなくリスクが大きい。輸送会社と提携できたとしても,件数が少なく1件あたりの輸送費が高額になることも問題であった。J-TECは,販売の条件をクリアするために,自社で輸送インフラを整えた。「表皮細胞の受け入れから培養,出荷検査,梱包・運搬まですべての段階において自社でインフラを整えた」と小澤氏は保険収載後の実用化に自信をのぞかせる。
 以上,2つの壁から小澤氏は「再生医療の産業化には企業の関与が不可欠。研究機関,製造設備を保有していないバイオ・ベンチャーでは承認までたどり着くことは現実的に難しい」と指摘する。
 ジェイスは,現在のところ重症熱傷患者(体表面積の30%以上のU度とV度の熱傷)を対象としており市場は決して大きくない。J-TECではジェイスの年間売上高を数十億円と予測している。

様々な機関から技術移転を受け事業領域を拡大
J-TECが表皮の次に着目したのが,広島大学教授の越智光夫氏が研究している軟骨の再生技術である。J-TECは,自家培養軟骨を新しい事業領域とするために越智氏から技術移転を受けた。自家培養軟骨は広島大学病院などでの治験が終了し,製造販売承認の申請の準備中である。軟骨に関する疾患は患者数が非常に多く,J-TECでは年間数百億円以上の売り上げを予測している。
 2003年8月には,イタリアThe Veneto Eye Bank Foundationから技術移転を受け,自家培養角膜上皮の事業化に向けた研究開発を開始した。J-TECの親会社であるニデックは,眼科に関する技術を持っており,技術の親和性は高かった。自家培養角膜上皮は前臨床試験が終了し,2007年5月に厚生労働省に治験前の確認申請を提出した。J-TECでは年間数十億円の売り上げを予測している。この3つがJ-TECの事業領域である。「われわれは事業領域をむやみに増やさない。今の事業を確実に成長させていく」(小澤氏)。
 これら研究機関からの技術移転に関しては,J-TECのこれまでの実績,取り組み,業界での地位などが評価された。「交渉の過程で特に問題となったことはない」(小澤氏)。

事業強化のために特許ポートフォリオの充実を図る
 J-TECは知的財産を「事業の源泉」(小澤氏)と捉えており,事業目標と照らし合わせて特許ポートフォリオを形成するように活動している。技術移転では,基本特許は移転する者が所有している。移転される側としては,周辺特許や改良特許を揃えるのが一般的である。J-TECは現在,品質検査方法や改良した生産方法,新規の細胞培養方法などを固めている段階である(図2)。
 J-TECは2008年4月,先に挙げた3つの主力事業のグローバル展開や応用展開,新事業領域などを研究する探索研究部門を立ち上げた。ここでは,基礎段階の研究を進めている。ここから生まれる発明は基本特許となり,今後の強固な事業基盤の構築に不可欠である。これに周辺特許などを加えることによって事業全域を包含する特許ポートフォリオを構築する予定である。

 図2:知財戦略
図2
(J-TEC提供) 


注1:独立行政法人医薬基盤研究所とは
 国立医薬品食品衛生研究所大阪支所を主な母体に,国立感染症研究所,独立行政法人医薬品医療機器総合機構の組織の一部を統合して,平成17年4月に創設された。
 これは,平成7年から進められてきた厚生労働省所管試験研究機関の再編成の一環として,規制と振興の分離を図りつつ,創薬支援に関わる組織を一体化して,医薬品・医療機器の開発支援をより効果的に進めようとするものである。

注2,注3:フィーダー細胞とは,3T3-J2細胞とは
 フィーダー細胞とは,表皮細胞を安定的に増やすために用いられる培地的役割をする細胞である。3T3-J2細胞は,マウスに由来する細胞でありフィーダー細胞の1種である。

注4:GMP(good manufacturing practice:適正製造規範)とは
 薬事法が定める省令の1つ。医薬品の研究,製造設備,原料,製造,中間体,最終製品,包装資材,検査,販売,廃棄といった各過程で記録,文書化する事を義務付けている。GMP設備とは,上記過程において,安全に製品を作り,一定の品質を保てるように定めた設備である。



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