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徹底したモジュール化で使い勝手の向上とコスト低減を実現
医薬品等安全性試験支援システム「TOXランチャー」


[2009/06/04]

 医薬品開発は,10〜15年という多大な年月と,多くの物質に関する膨大なデータを処理し,それを正しく評価し,厳正に管理する必要がある。また,直接人体に関わるものだけに,厳しい規制やGLP(動物実験実施基準),FDA 21CFR Part11(米国食品医薬品局が制定した電子記録・署名規則)などをクリアしなければならない。また,医薬品・農薬・化学物質等の安全性は,安全性試験という動物実験で確認されているが,医薬品開発の研究者は,そのデータ収集手順の厳格さによる,膨大な業務手続きが大きな負担となり,本質的な研究がなかなか進まない現状がある。
 製薬メーカー各社は,こうした増大するデータ処理の効率化と試験データの改ざん防止やデータのトレーサビリティー確保を目的に,業務フローを管理するコンピュータシステムを導入しているが,そのシステム自体も複雑化,巨大化する傾向にあり,ITの運用コストおよびその保守作業の負担が経営および研究現場を圧迫しつつある(図1)。

図1 医薬品開発の現状
図1 医薬品開発の現状


徹底した業務分析,モジュールのブロック化で飛躍的な省力化を実現

 三重県のITベンチャー企業 エイチ・アンド・ティー(桑名市,濱田孝治社長)は,新薬開発のうち動物実験段階でのデータ収集,集計業務をGLPやFDA 21CFR Part11に準拠した形で支援する業務パッケージ「TOXランチャー」(図2)を開発し,大手医薬品メーカーから高い評価を得ている。その特徴は,徹底した業務分析に基づくモジュールのブロック化によりカスタマイズを不要とし,飛躍的な省力化とコスト削減を実現したこと。創薬の研究・開発現場で大きな負担となっていた運用中のバリデーション(適格性確認)の作業を自動化することが可能となり,「既存システムに比べ作業量を1/10まで減少させることができた」(濱田孝治社長)という。

 こうした効率化を可能にしているのは,当社の独特のシステム開発ポリシーと開発体制にある。
 「この業界は,パッケージシステムと言いながら,大幅なカスタマイズ前提で,ほぼ受託開発のようになっています。当社は,完全パッケージシステムを前提としており,お客様の個別ニーズに対応した小さなブロック(モジュール)をたくさん用意し,それを組み合わせることでシステムを作り上げます。子供の頃遊んだLEGOブロックのようなものですね。ただし,基本的にお客様の言われる通りにブロックを組み合わせてシステムを構築するようなことはしません。逆に,顧客企業の業務プロセスの問題点を整理してディスカッションします」と濱田社長は独特の開発ポリシーを強調する。

 「一般のITベンダーの場合は,とにかくお客様の言うとおりに既存の運用を基準にシステムを構築しようとします。その結果,複雑でしかも使い勝手の悪いシステムとなり,費用もかさんでしまいます」顧客の言う通りにはしないという姿勢をとりながらも高い顧客満足(CS)が得られているのは,安全性試験の現場業務に精通しているシステムエンジニアが開発を行なっているからだ。「当社では,モジュール開発を外注化せず,全て内部のスタッフでおこなっています。彼らはもともと医薬開発関係の研究所などで安全性試験に携わっていた人材で,業務プロセスを熟知した上でシステムを構築しているのが他社とは決定的に違う点です」(濱田孝治社長)

 過去の他社システムの多くは,データ改ざんを防ぐために厳しいデータロックがかけられ,データの修正が非常に困難になるような措置がとられていた。そのため,入力作業やルールが複雑化し手間が増大していた。しかも,ケースによっては逆に厳しいデータロックが操作ミスや不正作業の呼び水になっていることもあった。最近のシステムは,幾分改善されてきたが,基本設計自身が昔から変わっていないため,やはりどこかで無理が生じてしまう。
 当社は,これをパッケージ化とモジュール化によってシステム全体の透明性を高めることで解決した。つまり,データロックによってユーザーの使い勝手を制限するよりも,不正な手段でシステムやデータに改ざんがなかったか,追跡調査できる仕組みをつくることにポイントを置いたのである。

図2 TOXランチャー画面
図2 TOXランチャー画面


運用中のバリデーションの自動化を実現,わずか一晩で完了

 このことは,当社のシステムが運用中のバリデーションの自動化を実現していることにも関係している。GLPでは,運用中のシステムの適格性確認作業「バリデーション」を定期的に行なうことを求めている。これはシステムの動作に変化がないことを確認するためのもので,実際のバリデーションでは,受入検査後のシステムを基準として,あらかじめ結果がわかっているテストデータを入力し,過去に集計・出力された結果と一致しているかどうかなどを判定する。
 既存のシステムの場合,このバリデーションの作業を手作業に近い形で行なうため,作業期間が3ヶ月,場合によっては1年間近くもかかることがある。しかし,当社のシステムの場合は,最初からすべてのモジュールに,自動的にバリデーションする仕組み(オートバリデーション)が組み込まれており,わずか一晩で作業が完了し,バリデーション作業に伴う手間とコストを大幅に削減した。

 モジュール化の徹底は,オートバリデーション以外にも様々なユーザーメリットにつながっている。
 TOXランチャーは,パッケージソフトウェアだが,各機能システム,アプリケーションがモジュール化しており,同じ機能でも複数の操作イメージが準備されているために,ユーザーは,必要な機能モジュールや,自社にあった操作イメージだけを選択できる。これを当社では「セレクタブル方式」と呼んでいるが,この方式の採用によって,ユーザーはシステムの初期導入コストを抑えることができる。必要なモジュールを順次加えていけばよいので「完全パッケージでありながらカスタマイズされたシステムと同じ感覚で使える」(濱田社長)ことが特徴となっている。


既存システムの1/3〜1/2にまでコスト低減

 このことは,結果的に,システム構築および運用のトータルコストを大幅に低減化することにもつながる。TOXランチャーの個別システムは,2500万円〜3500万円,フルシステムでは1〜2億円の導入コストが必要となるが,当社は,完全カスタマイズによるシステム構築およびフルセット型のパッケージソフトの導入,それぞれの場合と「TOXランチャー」のトータルコストを医薬品開発の特性として,長期間の使用を考えて比較した場合,IT新技術の採用やマイグレーション(プログラムやデータの移行・変換作業)にたいへんな手間がかかるため,最終的には,完全カスタマイズの1/3,フルセット型のパッケージに比べて1/2までシステムの運用も含めたトータルコストを低減化することが可能としている(図3)。

図3 トータルコスト比較
※フルセット購入時は,カスタマイズ&バリデーションが発生する
※H&Tはフルセット購入は初期のみ。次年度以降は,随時追加導入&商品入れ買え(買い替え希望しなければさらにコストダウン)
※保守料は,他社は15%(最低)と想定,H&Tは10%(基本)

図3 トータルコスト比較


 こうした点が評価されて,現在,TOXランチャーは,エーザイ,大鵬薬品工業,田辺三菱製薬といった国内製薬メーカーをはじめ,ファイザー日本法人の旧中央研究所から独立したラクオリア創薬などバイオベンチャー企業への採用も拡大している。
  「医薬品研究開発の現場を本音で手助けするということを念頭において,システムの開発を進めてきた。安全基準や標準手順を遵守することは,大前提だが,システムによって人間が縛られるようでは本末転倒となる。人間が使いこなせるシステムでないと意味がない。今後も現場研究者の立場にたったシステムの開発を続けていく」と濱田社長は語る。


海外へも進出を目指す

 世界の医薬品開発の主戦場は米国とヨーロッパだ。当社も設立当初より海外進出を目指し,米国の各種学会等に出展している(図4)。2005年には米国フィラデルフィア・サイエンスセンター内にリエゾンオフィスを開設し,ピッツバーグ大,ワシントン大,ジョージア工科大などから学生や院生を国際インターンシップとして受け入れるなど,海外市場とのリレーションづくりを積極的に進めている。
 「今年は米国でTOXランチャー(英語版)の採用企業が初めて誕生しそうです。ヨーロッパ市場にも数年後を目標に進出したい」と濱田社長は海外展開への抱負を語った。

図4 2009年3月に米国メリーランド州ボルチモアで開催された第48回SOT学会に出展した「TOXランチャー」
図4 2009年3月に米国メリーランド州ボルチモアで開催された第48回SOT学会に出展した「TOXランチャー」


【問合せ先】
エイチ・アンド・ティー
ホームページ:http://www.ht21.co.jp/health/index.html



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