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産学が大連携、高精細・大画面映像コミュニケーション・システムを開発
慶應義塾大・小池康博教授の光学ポリマー技術が中核

[2010/06/28]

 慶應義塾大学は、内閣府による先端研究者30人を支援する「最先端研究開発支援プログラム」に採択された同大理工学部の小池康博教授(写真1)の持つ光学ポリマー技術の産業化を推進するために、研究開発機関を新しく設立した。慶應大が設立したのは「慶應フォトニクス・リサーチ・インスティテュート(KPRI)」。所長は、内閣府採択プログラムの中心研究者である小池康博氏が務める。
慶應義塾大学理工学部 小池康博教授
写真1:慶應義塾大学理工学部 小池康博教授

 KPRIが目指すのは、家庭内超高速ネットワークと高精細・大画面ディスプレイを使用するリアルタイム双方向映像コミュニケーション・システムの実用化と関連サービスの開発。遠隔地にいる利用者の間で臨場感あふれる映像の双方向通信を行うことで、遠隔医療や遠隔教育など対面型コミュニケーションを実現、日本発の新産業創出につなげたい考えだ。小池氏らは産業界と協力しながら、プラスチック光ファイバーや液晶テレビ用光学部材などのコンポーネントとコミュニケーション・システムの開発、モデル住宅の建設に取り組み、システムやサービスの実証を進めていく。


中核は従来の常識をくつがえした光学ポリマー技術

「慶應フォトニクス・リサーチ・インスティテュート(KPRI)」の中核となる小池氏の技術は、プラスチックの特性を活かしながら、ユニークで優れた光学材料としての使用を可能にする技術である。プラスチックは軽い、曲げても折れないなどの特長を持つが、一方でガラスと比べ「光を通す」、「信号を歪みなく伝える」、「集光する」ことなどが困難とされていた。しかし、小池氏はプラスチックの構造を分子レベルで制御することにより、光学材料として画期的な特性を取り出すことに成功。小池氏はプラスチックの構造制御や製法について、いくつかの基本特許を押さえるが、それら技術を使用した製品の開発にあたっては企業との協力が欠かせない。KPRIは、内閣府の「最先端研究開発支援プログラム」から小池氏に助成される総額40億円の研究資金を活用しながら、光学プラスチック技術による新たな産業の創出に向けて企業との共同研究を進めていく。

写真2:小池教授が開発し商品化されたプラスチック光ファイバー(左)は従来品よりはるかに細く軽い(旭硝子提供)

 KPRIは、大きく3つの研究グループ(サブテーマ)から構成される。
 1つ目のグループは、主に家庭内配線用プラスチック光ファイバーの開発を進める(写真2写真3)。プラスチック光ファイバーは、ガラス製光ファイバーと異なり、曲げても折れない、敷設の現場で加工と接続が容易という特長を持ち、次世代の家庭内情報通信ネットワークの配線材料として期待されている。従来のプラスチック光ファイバーは、伝送中に光信号のパルスが広がったり、減衰が生じたりしてギガビット以上の通信は困難であったが、小池氏らはこの問題の解決に目途をつけ、40Gbpsで100mの通信に成功している。このグループには、ニューヨーク大学、旭硝子、積水化学工業、東芝などが参加する。研究リーダーは小池氏が自ら務める。



写真3:プラスチック光ファイバーは曲げ、結び、束ねに強く、家庭内での利用に期待(旭硝子提供)


 2つ目のグループは、主に液晶ディスプレイのプラスチック光学フィルムとバックライトの開発を行う。液晶ディスプレイには、何枚ものプラスチック光学フィルムが使用され、プラスチック光学フィルムは液晶パネルの部材コストのかなりの部分を占めると言われている。一般的なプラスチックフィルムの製造には押出成形法が使用されているが、液晶テレビ用光学フィルムを製造する場合は、張力や歪みがかかると偏光が乱れてしまうため押出成形法は使えない。そこで多くの液晶テレビ用光学フィルムは、溶液流延製膜法(樹脂材料を有機溶剤で溶かし、それをラインの支持体の上に流し込み乾燥させる)で製造されており、コストダウンには限界があった。
 小池氏らは、独自技術に基づく分子設計を行うことにより、引っ張っても偏光が乱れないフィルムを開発し、安価な押出成形法での製造を可能とした。小池氏らが開発した液晶テレビ用光学フィルムは、従来の1割程度のコストで製造できる上、性能も格段に向上するという。さらに、これらに最適な高性能薄型・低消費電力バックライトを開発し、これまで実現できなかった新しい液晶ディスプレイシステムの実現を目指す。このグループには、8社の日本企業が参加する。研究リーダーは、慶應義塾大学理工学部の多加谷明広准教授が務める。


部品開発にとどまらず、システムやサービス開発まで取り組む

 近年、日本の国際競争力の問題として、技術は強いが利用者に近いシステム構築やサービス開発が弱いという指摘が目立つ。KPRIはこのような問題提起を正面から受け止め、KPRIの取り組みを部品レベルでの製品開発や要素技術の開発にとどめず、システムやアプリケーションの開発まで広げる。この取り組みを進めるのが3つ目のグループで、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科の当麻哲哉准教授がリーダーを務める(写真4)。
 SDM研究科は、システム工学的なアプローチを使って専門横断的に製品・システムや社会制度の開発や問題解決を研究する(関連記事)。KPRIの中核研究者である小池氏は理工学部に所属するが、KPRIにはシステム開発を専門に取り組む研究者やスタッフも加わって小池氏を全面的にサポート、KPRIの開発成果を統合した映像コミュニケーション・システムとサービス開発に取り組む。

 この第3のサブテーマ・グループが具体的に取り組むのは、映像伝送技術の開発、システムの実証を行うモデル住宅の建設、新産業の創出を見据えたアプリケーションとビジネスモデルの開発の3本柱である。
 まず一本目の柱、映像伝送技術の開発は、ソニーや旭硝子などと共同で次世代デジタルテレビ用光インターフェースの規格化と圧縮技術の開発を行う。二つ目の柱であるモデル住宅の建設は、積水化学工業などと協力して、高精細・大画面の双方向映像コミュニケーションが実感できる「ギガハウス」を建設する。家庭内に光ネットワークを構築するためには、光トランシーバー、メディア・コンバーター(光信号と電気信号を変換する)、ハブなどのネットワーク周辺機器が必要になるが、これらはパナソニック電工やI/Oデータ機器などと連携しながら製品開発を進める。そして三つ目の柱、新産業創出については、財団法人慶応工学会の協力のもとで上記のメーカー各社に加えて、ネットワークや通信インフラをつかさどるNTTグループ各社、ネットワンシステムズなどと共同で進める。遠隔医療、遠隔教育、自宅に居ながら世界の美術品が鑑賞できるデジタル・ミュージアムなど、家庭内高速ネットワークと高精細・大画面ディスプレイの特長を活かし、新産業創出につながるアプリケーション開発とビジネスモデルの検討・検証を行う。

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科 当麻哲哉准教授
 
KPRI設立説明会の様子
写真4:慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科 当麻哲哉准教授
 
写真5:KPRI設立説明会の会場の様子


 4月上旬に慶應義塾大学日吉キャンパスの一室にて開催されたKPRI設立に関する企業向け説明会では、会場として用意された教室は、通信技術、液晶テレビの光学部材、住宅、医療などに関係する約20の企業・団体の関係者で埋め尽くされた(写真5)。かつて日本のお家芸であったカラーテレビは、現在世界市場で韓国企業などに押され、苦戦を強いられている。日本が基本特許を持つ光学プラスチック技術を高精細・大型液晶ディスプレイや高速光通信分野に取り込むことで、日本の関連産業の国際競争力が強化され、さらに将来的に遠隔地にいる利用者間で“Face-to-Face”の映像コミュニケーションが実現されることにより新市場が創出されることに、産業界からの期待が集まっている。

(白石泰基=テクノアソシエーツ)

●慶應フォトニクス・リサーチ・インスティテュート(KPRI) ホームページ
URL:http://kpri.keio.ac.jp/



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