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期待高まるフラーレン医薬
残されたフロンティア、医療分野へ

[2014/4/7]

 カーボンナノチューブ、グラフェンと並び、ナノテクを代表する炭素物質であるフラーレン。1985年に発見され、後にノーベル化学賞の受賞につながったフラーレンは、スポーツ用品分野や化粧品分野といった消費者向け商品の原料の他、昨今では有機エレクトロニクス分野、半導体材料、潤滑材といった工業用途での実用化が進んでいる。
 将来の大きな市場として期待される分野は、医療への応用である。中でも、フラーレンを“籠”のように利用し、金属原子を内包した「金属内包フラーレン」は、MRI造影剤やがん放射線治療への応用研究が進められている。残されたフロティア市場であるフラーレン医薬の実用化に向けた展望と課題を探った。

広範な分野で実用化が先行するC60

 フラーレンは炭素のみで構成される籠状の炭素分子で、分子を構成する炭素の数によってC60、C70などが存在する。代表的なフラーレンであるC60は、サッカーボールのような形状が特徴で、2003年に工業生産が行われて以来、多彩な機能を発揮することが知られる。
 C60、C70は、有機薄膜太陽電池や燃料電池等のエネルギー分野、次世代ナノリソグラフィ用材料等の半導体分野、テニスラケットやゴルフボール等のスポーツ材料分野の他、活性酸素を除去する抗酸化作用を生かした化粧品成分など、広範な分野で実用化が進んでいる。
 最近では、フラーレン内部にリチウムやガドリニウム、鉄等の金属を内包する研究が進んでおり、内包される金属の種類により独自の機能性を有する金属内包フラーレンが発表されている。医療分野への展開は、2000年代前半から研究が本格化している。

20〜30倍造影効果が高い金属内包フラーレン

 医療分野で早くから研究が進んでいたのがMRI造影剤への展開である。現在、主流となっているMRI造影剤は、ガドリニウム(Gd)を使ってMRIの信号を増強させている。ガドリニウムは毒性が強いためキレート(金属イオン封鎖剤)で囲い込んで投与しているが、キレートの代わりにフラーレンに内包することで、従来の20〜30倍の造影効果を得られることが2001年に初めて報告された(Bioconjug. Chem. 2001 Jul-Aug;12(4):510-4)。
 旧日本シェーリング(現バイエル)との共同研究を主導した名古屋大学大学院理学研究科研究科長の篠原久典教授は、「C82にガドリニウムを内包し、水酸基で水溶化した化合物を開発した。フラーレン表面の多数の水酸基が水分子への影響(プロトン緩和能)を強めるため、高い造影効果が得られると考えられる(図1)。造影能の高さを生かせば、従来より大幅に投与量を減らしたり、これまでMRIでは難しかった微小な病変を検出することも可能になる」とフラーレン造影剤の用途を見通す。
 2009年には、米国バージニア工科大学のグループが、ガドリニウムを3分子内包したフラーレン造影剤(C80使用)を開発するなど(Bioconjug. Chem. 2009 Jun;20(6):1186-93)、世界中で応用研究が進められている。実用化に向けて、C82の大量合成法の開発がハードルとなっているが、安定量を確保できれば、既存の造影剤とは異なるアプリケーションの開発も加速すると見られる。

図2●中性子の捕捉効率を反応断面積で表した吸収効率の指標(単位:barn)。フラーレン内部に1つのガドリニウムが内包され、炭素原子に水酸基(-OH)が結合している。
(データ:篠原教授提供)
図2●中性子の捕捉効率を反応断面積で表した吸収効率の指標(単位:barn)。市販の造影剤(Gd-DTPA)と比べ、フラーレン造影剤(Gd-Fullerol)の造影能が高いことが分かる。
(データ:Bioconjug. Chem. 2001 Jul-Aug;12(4):510-4)
図1●篠原教授が開発したガドリニウム内包フラーレンの模式図(Gd@C82(OH)n )。
フラーレン内部に1つのガドリニウムが内包され、炭素原子に水酸基(-OH)が結合している(左)。市販の造影剤(Gd-DTPA)と比べ、フラーレン造影剤(Gd-Fullerol)の造影能が高いことが分かる(右)。

がん細胞への伝達をイメージングしながら中性子を照射

 「DDS(Drug Delivery System;薬剤伝達システム)として活用すれば、がん治療への応用もフラーレン医薬のアプリケーションとなりうる」と話すのは筑波大学数理物質系物質工学域の長崎幸夫教授。最先端の放射線治療技術として実用化が期待される中性子捕捉療法(NCT)に関して、篠原教授と共同研究を進めている。
 現在のNCTは、ホウ素薬剤を使うホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が主流となっている。がん細胞にホウ素を取り込ませ、中性子線を照射。ホウ素から発生するα線でがん細胞を攻撃するという仕組み。原理自体は古くから知られるが、臨床研究が本格化したのは1990年代に入ってから。国内では、これまで500症例以上の治療実績があり、日本が技術的にも世界をリードしている。
 ただ、ホウ素は中性子線を吸収する性質がある一方、ガドリニウムと比べるとその吸収効率は落ちる(図2)。ガドリニウムを安全かつ安定的にがん細胞に届け、中性子を照射できれば、より高い治療効果を発揮する可能性がある。
 「ホウ素と比べ、ガドリニウムは中性子を集める力が60倍以上強い。ガドリニウムが発生するのはγ線だが、フラーレンに内包してがん細胞に十分量を届ければ、効果的な治療技術になる可能性がある。さらにMRIと組み合わせれば、薬剤ががん細胞に届いたことをリアルタイムでイメージングしながら中性子を照射できる点も大きな魅力。論文発表前だが、動物実験では良好な結果が得られている」(長崎教授)と話す。

図2●中性子の捕捉効率を反応断面積で表した吸収効率の指標(単位:barn)。
(データ:長崎教授提供)
図2●中性子の捕捉効率を反応断面積で表した吸収効率の指標(単位:barn)。
ガドリニウム(Gd)は、ホウ素(B)と比べ、吸収効率が高いことが分かる。

クラスター化してがん細胞に効果的に届ける

 がん細胞に効果的に届けるためのアプローチが、フラーレンのクラスター化。血管がもろく、リンパ系が未発達ながん細胞周辺では、低分子より大きな物質の方が蓄積しやすい特性がある。フラーレンをクラスター化して一定の分子量を持たせることで、効果的なヴィークルとして機能させる。具体的には、C82にガドリニウムを内包した上で、数個〜10個程度のクラスターを形成し、水溶性ポリマーを付加した化合物を薬剤候補として開発している(図3)。
 実用化に向けて、MRI造影剤と同様、大量合成技術の開発に加え、中性子発生装置の小型化などハード面の技術突破も求められる。本格的な臨床研究もこれからの課題だが、既存薬剤を上回る治療効果や利便性が期待されており、今後の進展が注目される。

(テクノアソシエーツ 笹木雄剛)

図3●長崎教授らが開発を進めるNCT向けのGdフラーレン薬剤
データ:2011 Sci. Technol. Adv. Mater. 12 044607
図3●長崎教授らが開発を進めるNCT向けのGdフラーレン薬剤


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