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ビッグデータと波形解析で「ものづくり」を改善
大手自動車メーカーで年間1,000万円以上のコスト削減事例も

[2014/7/24]

  近年、「ビッグデータ」という言葉が脚光を浴び、方々で見聞きする機会が増えた。一方でビッグデータ技術の業務での活用はこれからという分野も多い。しかし、ビッグデータの手法が注目されるより20年以上前に特許化され、工場などの生産設備の業務改善で効果を上げつつある技術がある。波形解析および波形判定という技術がそれだ。工場などの設備工事を手掛ける中山水熱工業(本社:三重県鈴鹿市)が、開発中である。この波形解析技術は有限会社ソフトロックス(本社:埼玉県上尾市)が有する特許に基づいており、中山水熱工業がソフトロックスより技術ライセンスを受け製品化を行っている(図1)。

生産設備機械の破損や故障を予測して防止

 一般的なビッグデータの用途では、データを収集し、集計や解析を行ってからグラフなどの視覚的な形で表現することが多いが、波形解析の技術では、まず解析対象となるアナログ信号を波形としてデータ収集し、見える化と同時に統計処理を行うことで、監視対象となる機器の状態が正常か異常かを判定するのが特徴である。従来であれば破損した後でなければ設備機械の異常状態を検知できなかったが、波形解析を活用することで信号の異常を予測し、機械部品の破損や故障、不良品の発生などの問題が起こる前に対策を取ることが可能となる。これにより、ある大手自動車メーカーでは、月間で100万円(年間で1,000万円)以上のコスト削減効果を確認できた事例もあるという。
 波形解析を行うデータは、電流、電圧、振動、温度、変位など、多種多様な信号を使用できる。アナログからデジタル化してデータの収集や監視が出来る信号であれば何でも良い。生産設備の場合、大量生産を行う工作機械などでは、それらの信号が一定の周期(サイクル)を持つ場合が多い。このため、そういった信号をサンプリングおよびデジタル化してデータとして取り込み、統計的に最大値、最小値、標準偏差などを算出することで、機器を運転中の信号の正常な範囲を設定する(図2)。設定した信号の正常範囲の上限および下限から逸脱した信号が検知された場合、機器に何らかの異常が発生していると考えられる。そこで、予め破損や消耗が想定される部品(例えばドリルやのこぎりの刃)などを検査し、必要に応じて修理・交換することで、機器自体の破損や不良品の発生を未然に防止することが可能となる訳だ。

図1●波形解析システムの心臓部となるデータ処理装置「Conandesse」(写真:中山水熱工業)
図1●波形解析システムの心臓部となるデータ処理装置「Conandesse」(写真:中山水熱工業)
図2● Conandesseでデータ収集し異常を検出した工作機械の信号の例 (写真:中山水熱工業)
図2● Conandesseでデータ収集し異常を検出した工作機械の信号の例 (写真:中山水熱工業)

ビッグデータの処理性能や入出力が課題に

 このように波形解析の考え方は比較的シンプルだが、実際にものづくりの生産設備で活用するうえでは課題もある。それは、ビッグデータとして取り扱うデータ量が膨大となり、システムの演算性能やデータ入出力性能がボトルネックとなる場合があるからだ。例えば、ある工場の生産設備で1秒当たり1,000点のデータを収集するとしよう。1分では6万点のデータであり、統計処理により上限値と下限値も計算するとデータ量は3倍の18万点/分となる。これはその機械で製造する1個分のデータなので、1日に3,000個を製造する場合、18万×3000=5億4,000万点にも膨れ上がるデータを演算処理する必要がある。
 これだけ大量のデータを処理するには、スーパーコンピュータ(スパコン)や超並列マシンといった非常に高価な演算装置が必要となり、一般的なものづくりの工場が導入するという点で現実的ではなくなってしまう。また、中山水熱工業の中山慎司代表取締役社長は「これだけ膨大なデータだと、そもそもスパコン等でも処理が困難かも知れない」と話す。
 一般的なビッグデータでは、どちらかと言えば比較的単純なデータを非常に多くのデータソースから収集するといった用途が想定され、そういった場合の演算はそれほど高性能な処理を必要としないことが多い。しかし、波形解析では原理上波形を構成する信号のデータをすべて収集してリアルタイムで演算処理を行うため、このような課題が生じるのである。今後、波形解析で取り扱うビッグデータをより低コストで高速に処理できるハードウェアの早期実現が望まれる。

社会インフラや医療などでの適用にも期待

 現状、この波形解析・波形判定技術は製造業の生産設備での活用が中心となっているが、入力となるデータがアナログで収集・観測可能なものであれば上述のような生産設備以外の分野でも応用可能である。
 例えば、「橋やトンネルなどの社会インフラの劣化診断、医療などでも波形解析の技術を応用可能」(中山氏)である。現在、これらの分野では、入力となるデータや信号を「点」として観測し、正常・異常といった状態の診断や判定を専門家(医療であれば医師)が行う場合が多い。しかし、いずれの分野でも精度の高い予測を行おうとすれば、点の観測やそれに基づく問題の予測では不十分な場合も少なくないはずだ。その結果、人命に関わるような事態が起きるとしたらその影響は計り知れない。
 社会インフラの劣化診断という点では、2012年12月に山梨県大月市の笹子トンネル内で発生した天井板落下事故が記憶に新しい。単純な目視に頼る検査だけでなく周期的かつ自動的な打音検査と波形解析を導入すれば、あのような悲劇の再発を未然に防止できる可能性がある。今後、「点」での予測ではなく波形解析による「線」または「面」でのビッグデータ収集と予測が、様々な分野で不可欠となる日も遠くないかもしれない。

大場淳一=テクノアソシエーツ



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