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カキ殻を利用した環境改善資材が、国産アサリの復活、干潟の再生の切り札に

[2014/7/25]

 三重県鳥羽市浦村で、カキ殻から作られた貝養殖用栄養剤を使ったアサリの新しい養殖法が開発され、注目を集めている。この養殖法は、貝養殖用栄養剤と砂利を一緒にネットに入れて干潟に設置し、アサリの幼生を着底させて、効率的に成長させるというもの。地元企業のケアシェル(本社:三重県鳥羽市、山口恵社長)が、水産総合研究センター増養殖研究所と共同で開発した。
 アサリの養殖は、地場産業のカキ養殖(冬期)の裏作としても取り組めることから、地元の漁業者が「浦村アサリ研究会」を立ち上げ研究を重ね、商品として安定的に出荷できる段階にまでこぎ着けた。この実績が評価され、浦村アサリ研究会は平成25年度の農林水産祭の水産部門で「天皇杯」を受賞した。ケアシェルとこの新しい養殖法は、激減する国産アサリの増産手段として期待されるだけでなく、他の二枚貝への応用や、干潟、砂浜の底質改善資材としても注目を集めている。

 ケアシェルが開発した貝養殖用栄養剤「ケアシェル」は、鳥羽市浦村の地場産業であるカキ養殖の廃棄物であるカキ殻の粉末と、製塩の副産物である水酸化マグネシウムを練り合わせて乾燥、固化させたもの。これと砂利を混ぜてネットの袋に入れて浜に置くと、海中を漂うアサリの幼生が効率よく着底することがわかった(図1)(図2)。アサリの幼生が着底した網袋からアサリの稚貝を取り出し、コンテナボックス(箱)にケアシェルと砂利を混ぜ、アサリを中に入れてカキ養殖のいかだに吊り下げ、垂下方式の養殖をすると、身入りの良いアサリを短期間に量産することができる(図3)。

図1●ケアシェル(写真左)は、砂利と一緒にネットに入れて使用する
図1●ケアシェル(写真左)は、砂利と一緒にネットに入れて使用する
図2●ケアシェルと砂利をいれたネット(培地)を干潟に置くとアサリの稚貝が着底する。
図2●ケアシェルと砂利をいれたネット(培地)を干潟に置くとアサリの稚貝が着底する。
図3●稚貝を取出し、養殖カキの筏を利用して、コンテナボックスで垂下養殖する。
図3●稚貝を取出し、養殖カキの筏を利用して、コンテナボックスで垂下養殖する。

 国産アサリの漁獲量は、1980年代の16万トンをピークに減少を続け、2001年以降は、3万5千トン前後と最盛期の25%以下にまで落ち込んでいる(図4)。その原因は、乱獲をはじめ、埋め立てや河川改修、水質汚染などによる成育環境の悪化、中でも陸上から流れ込む大量の有機物を含む排水が、砂の中で分解されきれずに形成される「還元層」(ヘドロ)が、砂浜や干潟の環境を決定的に悪化させたといわれている。砂浜や干潟の砂を掘ると、すぐに真っ黒い砂が現れるが、これが「還元層」と呼ばれる酸性土壌。残留している有機物から硫化水素が発生しやすくなり、それが着底したアサリの成育を妨げてしまうのだ。

図4●アサリ生産量の推移
図4●アサリ生産量の推移

激減する国産アサリの復活の切り札に

 アサリ漁獲量の激減に危機感を持った国は、(独)水産総合研究センター増養殖研究所や各地の水産研究所を通じて、砂浜、干潟の環境改善実験を重ねてきたが、思わしい結果が得られなかった。「当初は、人口干潟や覆砂事業など干潟全体の環境改善策を実験していたが、なかなかうまくいかなかった。発想を変えて、アサリの幼生が育つのに適した培地をケアシェルで作り、砂浜に置いてみたらどうかと養殖研究所が考え、やってみたら今度はうまくいった」とケアシェルの山口恵社長は、試行錯誤を重ねた開発当時のことを振り返る。
 ケアシェルは、カキ殻の粉末から作られているが、もともと農地の土壌改良や肥料用のアルカリ資材として使われていたもので、鳥羽市では、カキ殻を粉末化して農業資材として製造・販売する第3セクターの工場が稼働している。山口社長は、そこで製造されているカキ殻粉末と水酸化マグネシウムと練り合わせ、乾燥、固化させ粒状にする製造法を開発し、特許も取得した。アルカリ度の高い、ケアシェルの成分が徐々に溶け出て、ネット内(養殖培地)のPH値を上げ、アサリの幼生が育ちやすい環境を整えると考えられている。
 「アサリの養殖については、既に実用化と普及の段階に入った。三重県では、カキ養殖の裏作として取り組む動きが広がっており、カキ養殖を上回る産業になるという試算も出ている。他県からの引き合いもある」(山口社長)。現在、カキ殻を粉砕し、ケアシェルに加工する作業は、三重県、鳥羽の同社の工場で行っているが、地元の機械メーカー、東海テクノ(本社:三重県四日市市、市田惇一社長)が、ケアシェルを使ったアサリ養殖の将来性に着目。貝殻の粉砕とケアシェル製造を可能にするコンパクトな製造機械を開発し、今年度中にも全国に供給する予定だ。「そうすれば、地元の貝殻を使ったケアシェルが製造され、地域循環型のビジネスとして国産アサリの増産が全国に広がり、砂浜や干潟の再生につながる」と山口社長の夢はふくらむ。

ケアシェル 山口恵社長
ケアシェル 山口恵社長

他の2枚貝、ハマグリの養殖にも

 ケアシェルとその養殖法が、注目される別の理由もある。ハマグリのようなアサリ以外の2枚貝の養殖にも適用できる可能性もあるからだ。三重県には、桑名のようにハマグリの名産地が存在するが、近年、アサリと同様に漁獲量が激減している。
 「ハマグリの場合は、陸上産卵とケアシェルによる養殖法を組み合わせることが必要であり、まだ研究段階」(山口社長)とのことだが、仮に国産ハマグリ復活の切り札になるのであれば、伝統的な地域産業の復興に果たす役割も大きい。

干潟、砂浜の底質改良、魚礁にも

 ケアシェルの山口社長のもとには、全国の漁業関係者の視察が相次いでいる。三重県鳥羽ではカキ殻を原材料としているが、ホタテ貝の殻を原料としたケアシェルが試作されていて、大量の貝殻廃棄物の処理が課題となっているホタテの養殖事業者から高い関心が寄せられている。
 また、ケアシェルを使って、魚礁を作ると、海草が発育しやすいという結果も確認されている。海草類が育たなくなり、漁場が喪失する「磯焼け」が、全国の海で問題となっているが、その解決策としても注目を集めているのだ。
 さらに山口社長はケアシェルを使った干潟や砂浜の再生にも取り組もうとしている。カキ殻から作られたケアシェルには、ヘドロのように堆積した有機物、硫化物を減少させる底質改良効果が認められていて、アマモなどの海草類も成育しやすくなるという。「海からの恵みをまた、海に帰すことで、環境のバランスが取り戻すことができるなら、こんなに素晴らしいことはない」と山口社長は次なる挑戦への抱負を語った。

(テクノアソシエーツ 加藤芳男)

■ケアシェル:http://www.careshell.jp/

説明資料ダウンロード
(株)ケアシェル
「カキ殻を利用した養殖資材『ケアシェル』の環境改善資材への応用と地域活性化」



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