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製薬企業を悩ます医薬品への異物混入
終わりなき挑戦の現状

[2014/10/24]

 製造業において品質管理の不備は、企業価値の根幹を左右する重大事象に発展しかねない。自動車、家電、食品など、様々な業種で製品回収やリコール事例が後を絶たない中、企業は品質管理に対する弛まぬ努力を続けている。
 こと医薬品に関しても同様だ。医薬品の品質トラブルは、健康被害の原因となりうる可能性がある。副作用リスクや規格不適合、表示ミスなどが原因で毎年150件程度の回収が行われている。中でも、医薬品への異物混入は製薬企業を悩ます原因の一つだ。各社、製造現場のクリーン化や検査装置の導入などで異物混入リスクを軽減するものの、検査すり抜けを100%防ぐことはできず、その対策に終わりはない。さらに検出感度の向上が逆に良品を不良品として検出する誤検知を招くなどの課題も顕在化している。医薬品製造における異物検査の現状を報告する。

医薬品製造の大原則「入れない」「造らない」「出さない」

 病気を治療する際、必ずと言っていいほど使用される医薬品。製薬企業は、開発段階から安全性と有効性を厳密に検証するとともに、品質管理・保証を徹底している。人の体内に入る医薬品は、その品質に万が一は許されない。各社、製造工程を体系化するとともに、工場内への立ち入り方法や空調管理、防虫対策などを施し、品質リスクに対する体制に力を入れている。
 品質管理で関係者を悩ますのが、毛髪や金属片、虫といった異物の混入だ。医薬品製造における異物対策や品質管理に詳しいコンサルタント脇坂盛雄氏(元エーザイ品質保証部統轄部長/品質保証責任者)は、「医薬品製造の大原則は、『入れない』『造らない』『出さない』の3つ。『入れない』は、原料/資材の異物に汚染された物の混入を防止すること。『造らない』は、自分たちの製造において、外部からの昆虫やごみの侵入経路を防ぐように工場を設計し、作業員や製造環境に由来する汚染を防止したり、フィルターやふるいなどを活用して異物を除去したりすること。最後が『出さない』で、異物検査を通じて基準以下の医薬品が市場に流通しないようにする。品質管理体制の構築に終わりはなく、製造工程の効率化と両立しながら対策を講じている」と指摘する。

進化する異物検査装置の検知力

 現在、医薬品の製造工程では、人による目視検査の他、画像検査機器や金属探知機(メタルチェッカー)等を活用し、毛髪やガラス片、昆虫といった異物混入を検査している。注射剤についてはさらに厳重で、クリーンルームを導入し、極力、人手を介さない製造体制を構築している。
 「画像検査による異物検知は30〜40年前から製薬工場に導入された。薬剤の種類にもよるが、包装工程前後に組み込まれる場合が多い。当初は、装置の精度が低く、人の作業を補完する意味合いが強かったが、近年のセンサー技術や画像解析技術の進化により、異物検知の精度は向上している」(脇坂氏)と説明する。画像検査装置は、ラインを流れる医薬品を撮影し、異物の有無をチェック。異物が検知された医薬品を除外する仕組みだ。現在の検出感度は50μmに達し、人の目視検査を上回る能力を発揮するという。こうした体制の構築や検査装置の進化により、ここ数年、異物混入による医薬品の回収は年10件程度で推移している(図1)。

図1●異物混入に基づく医薬品の回収件数 (出所: 医薬品医療機器総合機構ホームページより作成)
図1●異物混入に基づく医薬品の回収件数 (出所: 医薬品医療機器総合機構ホームページより作成)

検査装置の苦手分野

 ただ、検出感度は高くなったものの、依然、“苦手分野”はある。画像検査装置は異物の面積を検出する。例えば、毛髪のように縦方向から見ると点になる(=面積が小さくなる)異物は見逃してしまう可能性がある。また、錠剤の縁や側面に混入した異物にも弱い。当然のことながら、薬剤の内部に入り込んでしまった異物は見つけられない。
 異物の見逃しに加え、製薬企業を悩ませているのが、良品巻き込みだ。検出感度を高めると、光の反射や色ムラなどから、良品を不良品と誤検知する確率も高くなるという。「注射剤液剤だと不良品として検知されたものの50〜70%が良品というケースもある。固形剤では50%以上が良品となる。良品巻き込みの防止は大きな課題」(脇坂氏)と指摘する。
 抗体医薬に代表される生物製剤や抗がん剤では、1剤数十万円する薬剤も珍しくない。良品の回収率向上は工場の生産性だけでなく、製薬企業の収益にも直結する。そのため、特に薬価の高い製剤では、事前に容器のガラス瓶の異物不良品を除いて製造に使ったり、製造工程では、画像検査装置で不良品と判定されたものをさらに2次、3次チェックしたりして良品巻き込み率を下げるなどの対応をとっている。
 「機械化によって異物検知能力は向上し、製造工程の効率化も進んだが、品質向上に終わりはない。現在は、異物の種類によって複数の検査装置を導入している。今後は、面積の小さい異物や医薬品内部の検査に加え、良品巻き込みの改善が品質管理のテーマになるだろう」と、ある製薬企業関係者は話す。
 実際、画像ではなく、X線等を活用して異物を検知する技術開発も進められている。異物混入リスクを限りなくゼロに近づけ、良品巻き込みを減らす。その挑戦に終わりはない。

テクノアソシエーツ 笹木雄剛


Mind5Sが品質保証のベース
脇坂盛雄(元エーザイ兜i質保証部長)

Mind 5Sとは
5Sは「整理、整頓、清掃、清潔、躾」と言われています。Mind5Sは“躾”の代わりに“精神”です。私はエーザイで品質管理9年、品質保証21年と品質関係に30年携わって来ました。30年携わって来た品質保証について思うところを紹介します。

医薬品の品質保証GMP
医薬品の品質保証は製造所におけるGMPが省令で定められています。GMPは基本の品質保証ですが、それだけでは品質保証を確実にすることはできません。そこで、GMPに“GMP上乗せ基準”を設けて品質保証を実施して来ました。上乗せ基準とは、一般の製造業で言う「製造で品質を造り込む」考えです。徐鉄機やバーコード確認、全数外観検査機導入、センサーはネガティブセンサー(トラブルがあれば信号を送り不良品へ)からポジティブセンサー(良品信号があって初めて良品側へ)への切り替えなどを行いました。

人が創る品質
 しかし、人の作業を機械に置き換えてレベルを上げても、機械は予定したことしか行いません。機械と人との接点で思いもかけないトラブルも発生します。品質は人が造ります。人の資質を高めること、感性を高めることが品質保証にとって重要です。そこで“人が創る品質”の言葉を通して、人の知識を高める、人の感性を高めることが重要性であることを機会あるごとに伝えて来ました。「工場を救った一人の女性の感性(半導体の製造所)」のきちんと研修を行い、風通しの良い風土を作っていた話と、映画「動脈列島」でのトラブルが起きるところに偶然出くわした人の資質により大事故にするし、防ぐことも出来る話を紹介しながら、一人ひとりが品質保証を担っていることを一緒に考えて来ました。

誇りの品質
 人は心を持っています。人の資質を高めるには、その人が自分の資質を高めたいとの思いがないと高まりません。また、品質保証は何か起きると責任を問われ、起きないと当たり前のように思われがちです。そのために品質保証に取り組む人は誇りを失いがちになります。そこで、”誇りの品質“をガンジーの言葉「あなたの誇りは自分で棄てない限り、誰もあなたから奪うことはできない」を紹介しながら、品質保証に携わる人の誇りを自ら大切にしていこうと呼びかけました。

祈りの品質
 医薬品の品質を常に願うことは、祈りに通じることでもあります。そこで、“祈りの品質”ということで、品質について絶えず考える続けることの大切さを伝えました。考えて自分にできることは自分で行う、できないことは祈る、祈って(考えて)いると前にできないと思ったことができるようになっている場合があります。この祈りの力が品質保証にはなくてはならないと思っています。

先送りしない品質活動
 品質保証は地道な活動です。一つの方法で品質問題を解決することはできません。品質保証は何もしなくても問題が起きない場合があります。しかし、それは品質トラブルの地雷を増やしていることになります。地雷を踏む確率が増えるだけです。誰かがその地雷をいつか踏みます。

神は小事に宿る
 “大事は皆小事より起こる”(「貞観政要のリーダー学」守屋 洋著より)
太宗(唐の二代目名君)が側近の者に語った。貞観六年、太宗が側近の者に語った。
「近ごろ、朝廷で政務を決裁するとき、法令違反に気づくことがある。この程度のことは小事だとして、あえて見逃しているのであろうが、およそ天下の大事はすべてこのような小事に起因しているのである。小事だからといって捨ておけば、大事が起こったときには、もはや手のつけようがない。国家が傾くのも、すべてこれが原因である」

精神を基本に考えるロゴセラピー
 この小事を先送りせずに一つひとつ行うのも人です。それを行おうと思う気持ち、精神があるかないかに左右されます。ヴィクトル・フランクル「夜と霧」の著者(ナチスの強制収容所の体験を記した精神科医)が始めたロゴセラピーでは、人は心と身体がある。その上に精神があり、心と身体の方向性を決めていると言っています。心が病んでいる、身体が言うことをきかない時でさえ、精神が健全なら人のために生きることもできると説明しています。この精神に働きかけるのがロゴセラピーです。

Mind5Sを伝えて
 Mind5Sの精神(S)は品質保証の核心なのだということを、品質保証30年携わって来て実感しています。それを伝える活動を今後して行きたいと思い、Webサイト“祈りの品質−人が創る品質−”を立ち上げてこれまでの知識/経験を紹介しています。

以上




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