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日本のものづくりの未来を拓く国産レアアース
その価値を最大化できる機会は今しかない
東京大学 大学院工学系研究科 エネルギー・資源フロンティアセンター 教授 加藤泰浩 氏
[2015/07/23]

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 日本は天然資源に恵まれない国で、いつも資源国の思惑に翻弄される立場にいる。私たちは、そう思い込んではいないだろうか。2012年、南鳥島の排他的経済水域の深海で、極めて高濃度のレアアースを含む泥が発見された。レアアースの応用製品は、自動車や電子機器など日本企業が強みを持つものばかり。世界が直面する環境問題やエネルギー問題の解決に貢献できる、夢のある製品も作ることができる。国産レアアースを使った工業製品は、日本の未来を支える特産品になる可能性を秘めている。南鳥島周辺でレアアース泥を発見し、その引き上げと利用に向けた技術開発を進めるプロジェクトを率いる東京大学 大学院工学系研究科 エネルギー・資源フロンティアセンターの加藤泰浩教授に、このプロジェクトの意義と現状、そして今後の展望を聞いた。

――日本が排他的経済水域である南鳥島の深海からレアアース泥を引き上げ、利用することの意義をお聞かせください。

加藤 2010年、尖閣諸島での漁船衝突事故に端を発して、中国は日本へのレアアースの輸出を禁止しました。レアアースは、日本企業が生産する工業製品の中でも特に価値が高い製品、自動車やハイテク製品などを作り出すために欠かせません。鉄や銅、石油などと比べると使う量自体は微量ですが、他に代わるものがない唯一無二の性質(磁気的、光学的特性)を持った材料なのです。そのレアアースを調達できないことは、日本のものづくりがストップしてしまうことを意味します。

 レアアースの安定した調達は、日本が工業製品を継続的に生産していくための大前提です。2010年の事件を通じて、日本のものづくりの生殺与奪を、中国が意のままにコントロールできる状態にあることを思い知りました。

 そんな時、私たちは、2011年に太平洋、2012年に日本の南鳥島周辺の排他的経済水域の中で、極めて高品質なレアアース泥を発見しました(図1)。まさに、リスクを抱えた日本にとって、局面を一変させることができる“天からの贈り物”と呼べるものです。この自国にあるレアアース泥を引き上げ、利用するための技術と仕組みを作り出すことで、日本のものづくりの姿を、他国の国際資源戦略に翻弄される立場から、資源国として世界戦略を仕掛ける立場へと180度転換することができます。

図1●南鳥島周辺の排他的経済水域でレアアース泥を発見 (資料提供:東京大学 大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授)
図1●南鳥島周辺の排他的経済水域でレアアース泥を発見
(資料提供:東京大学 大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授)

日本の高付加価値産業の生命線

――レアアースがないと、日本は価値の高いハイテク製品を作ることができないのでしょうか。

加藤 例えば、電子化と電動化が進む現在の自動車では、効率のよいモーターや高感度のセンサーなどにレアアースを含む強力な磁石が必須です。ハイブリッド車「プリウス」1台当り、中国のレアアース鉱石3トンから取り出したレアアースが使われています。

 これまでにも日本は、中国のレアアースを使わなくてもハイテク製品を生産できるよう、あの手この手の策を考えてきました。例えばジスプロシウム(Dy)を使わなくても強力な磁石を作ることができる技術の開発などが進められています。こうした技術が開発されれば、万事解決と考える人がいるかもしれません。しかし、こうした技術は未だ研究段階にあり、工業製品の生産に適用できる状況にはないのです。

 むしろ、レアアースの応用分野は、広がり続けています。

 インパクトの大きな例を挙げましょう。イットリウム(Y)を使った超電導体が実用化する可能性が出てきています。銅線で作られている現在の送電網では、送電時に電力の5%を損失しています。イットリウムを使って作り出した超電導体の電線に置き換えれば、損失を1.5%まで低減できることが分かっています。日本全国の送電網の電線をすべてこれに置き換えると、原子力発電所8基分の電力を削減できる計算になります。米国では、2030年に送電網に超電導体を導入する計画があります。レアアースを潤沢に調達できれば、そこに日本が超電導体の電線を世界中に輸出できるようになるチャンスが生まれるかもしれません。優れた特性の鍵となる材料を自国で賄えますから、強力な輸出品となることでしょう。

――ただ、2010年の事件以降、レアアースの市況は安値で安定しています。

東京大学 大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授
東京大学 大学院工学系研究科
エネルギー・資源フロンティアセンター
加藤泰浩 教授

加藤 確かに現在、中国によってレアアースの価格が引き下げられ、安価に調達できるようになりました。しかし潜在的に抱えているリスクは、全く解消していません。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」と呑気に構えていると、忘れた頃にそのリスクが顕在化することになります。

 中国は、極めて戦略的に動くことができる国です。これまでにもレアアースに関しては、キッチリとした戦略に基づいて、世界の中での支配力を強めてきました。1990年時点で、レアアースの鉱山は、米国などいくつかの国にありました。その時中国は、自国のレアアースを圧倒的な安値で販売しました。そして、海外の競合企業を破綻に追い込み、寡占体制を固めました。多くの鉱山は、民間企業が保有していたため、採算が取れない安値攻勢に耐えられなかったのです。そして2000年に、満を持して価格と生産量を見直し、輸出も規制して、市場価格を上昇させました。利益の回収に入ったのです。この段になって、日本もかなりまずい状況にあることを悟りました。そして2010年、その不安が現実になったのです。

 2010年には、輸出を禁止する一方で、レアアースを入手できなくなった日本企業に、中国政府はレアアースを使ったハイテク製品を生産する工場を中国国内に作るよう促しました。レアアース市場での市況誘導力を、自国のものづくりの国際競争力強化につなげる戦略に出たのです。これが実現すれば、日本企業からの技術流出は避けられませんでした。ものづくりで経済を支える日本の基本的な姿が崩れる可能性があったのです。

海でも開発を始めた中国、事態は一刻を争う

――南鳥島周辺のレアアース泥を資源として利用できるようになれば、レアアースの調達が安定するだけではなく、新しい産業の創出も期待できるわけですね。

加藤 その通りです。しかしグズグズしている暇はありません。私たちの発見以降、中国は新たな戦略を展開しています。南鳥島のさらに南方の公海に、コバルトリッチクラストという別の資源の採掘を目指すという名目で鉱区を獲得し、海底の調査を開始しました。その海域は、コバルトリッチクラストはそれほど多くは存在しないと思われるのですが、中国はあえてその海域を選んだのです。

 狙いは、レアアース泥にあることは明らかです。南鳥島の排他的経済水域では、その南側に最も良質なレアアース泥があります。その延長上の公海には、さらに良質なものが眠っている可能性があるのです。実際、中国共産党中央委員会の機関誌である人民日報のメディア「人民網」の報道記事の中で、この海域でレアアースの調査をすると言明しています。

 レアアース泥の開発は、一刻を争います。私は、日本が局面を変えるために許されている猶予は3年、遅くとも5年しかないと考えています。

 このままでは中国に先に技術開発を始められる可能性があるのです。中国は、海底の資源採掘の高度な技術を持つフランスのTechnip社の企業の技術を借りて、採掘技術を開発しようとする可能性があります。

――開発を加速させるため、民間企業が参加する「東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム」を立ち上げたと聞いています。どのような企業が参加しているのでしょうか。

加藤 私たちは、2014年11月に「東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム」を立ち上げました(図2)。ここでは、産学官自のメンバーが連携して、レアアース泥の探査、採泥・揚泥、選鉱・精錬、泥処理にかかわるさまざまな技術開発と仕組みを整備すべく、全体最適解決案を検討することを目的としています。

図2●「東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム」を発足 (資料提供:東京大学 大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授)
図2●「東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム」を発足
(資料提供:東京大学 大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授)

 コンソーシアムに参加している企業は、現在11社。三井海洋開発、東亜建設工業、経営共創基盤、三井金属鉱業、深田サルベージ建設、商船三井、スターライト工業、IHI、三徳、信越化学工業、太平洋セメントと、名だたる企業が名乗りを挙げてくれました。これは、私たちが感じているリスクが杞憂ではなく、考えている構想が絵に描いた餅などではない、大きな意義と高い実現性を持ったものであると共感する企業が多いことの証です。

 私たちは、ここにレアアース製品のユーザー企業にも参加してもらいたいと考えています。すると、コンソーシアムに参加する企業の知見を合わせて、レアアースの採泥から利用製品の生産まで、サプライチェーン全体で整合性を取った技術と仕組みを用意できるようになります。

準備は万端、後は実証試験の資金だけ

――レアアース泥を採泥し、利用していくためには、どのような技術や仕組みを確立する必要があるのでしょうか。

加藤 まず水深5700mの深海から、継続的に良質なレアアース泥を採泥・揚泥できる技術を確立しなければなりません。ただし、採泥・揚泥については、コンソーシアムの参加企業と検討を進めた結果、既にメドがついています。

 海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船「ちきゅう」では、6インチの細い口径のドリルパイプを使い、これを水深7000mまでの海底に送り込んで掘削しています。これに圧縮空気(エアリフト)を送り込み、レアアース泥を吸い込む仕組みを取り付ければ、採泥・揚泥できます(図3)。着手から2年間、30.8億円の費用で採泥・揚泥できると、国土交通省 海上技術安全研究所が主催した勉強会で見積もられました。こうした既存機材を使った実証試験を、ここ2,3年のうちに進め、1日1300トンを5日間継続的に引き上げ、合計約8000トンを引き上げる計画を持っています。

図3●既存機材を使った実証試験を計画 (資料提供:東京大学 大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授)
図3●既存機材を使った実証試験を計画
(資料提供:東京大学 大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授)

 しかし、残念ながら現時点では、このわずか30.8億円の調達ができていません。準備は万端なのですが、着手には至っていません。

 次に、採掘したレアアース泥から、レアアースを取り出す技術も確立する必要があります。ただし、幸運なことに、南鳥島のレアアース泥は、レアアースの含有量が高く、精錬が簡単なのです。このため、大きな障害はないと考えています。タヒチやハワイでもレアアース泥の存在が知られていますが、タヒチのものの含有量はせいぜい1500ppm、ハワイ沖のものは700ppm弱しかありません。これが南鳥島の泥には7000ppmも含まれているのです。

 さらに、残泥処理や再資源化についても、合わせて考えていきます。レアアース泥からの採取は、陸地の鉱山からの鉱石から採取する場合に比べて、環境にやさしいと言えます。陸地の鉱石には、トリウム、ウランなどの放射性元素が多く含まれ、これの処理に手を焼きます。しかし、レアアース泥にはほとんど含まれていません。

深海の天然備蓄倉庫が、価格高騰の抑止力になる

――中国が産出するレアアースに対して、価格競争力で優位に立つことができるのでしょうか。

加藤 コストを考慮して価格を決めれば、政治的な意図で価格を引き下げた中国産と比べて、厳しいことは確かでしょう。しかし、2010年のように輸出をストップされたり、価格を一気に引き上げられた時に、いつでも代替できる用意があることを示すことは、価格を安定させる抑止力を持つ意味で極めて重要になると考えています。日本は、南鳥島の周辺に常に膨大なストックを持っていることになるからです。いわば、天然の備蓄です。

 実証試験を行うことができれば、この抑止力を獲得できます。天然ガスや石油において、米国はシェールガスやシェールオイルで価格を安定させる力を持ちました。同じことを、日本はレアアースにおいて展開できるのです。

 価格競争力に関しては、その後の技術開発でさらに高めることができるでしょう。南鳥島周辺のレアアース泥の中には、レアアースが高濃度で濃集しているアパタイトという鉱物が多く含まれています。ハイドロサイクロンと呼ぶダイソンの掃除機のような機械を使えば、その鉱物だけを集めることができそうなのです。レアアース含有量は平均1万4000ppm、最高で2万ppmまで高まります。海底面上でアパタイトだけ選別して揚鉱できれば、経済性は一気に上がります。

 また、含まれているレアアース成分のバランスは、理想的なものです(図4)。ジスプロシウム、テルビウム(Tb)、イットリウムなど、価値の高いハイテク製品で求められる重レアアースの含有比率が高いのです。この点からも、経済的な価値は、非常に高いと言えます。

図4●レアアース泥の成分は理想的 (資料提供:東京大学 大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授)
図4●レアアース泥の成分は理想的
(資料提供:東京大学 大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授)

国産レアアース製品を日本の特産品に

――レアアースに関して、日本は資源産出国になれる可能性があるわけですね。

加藤 その通りです。ただ単に資源を産出するだけではなく、レアアース由来のハイテク製品を作り、より価値の高い製品を輸出できます。日本の高品質な農産物を起点として、より価値の高い加工品を作り出す「第6次産業」が話題になっています。しかしレアアースでは、産業規模が桁違いに大きい日本の特産品を作ることができるのです。このことは、日本のものづくりの再構築に必ずや大きな力となることでしょう。

東京大学 大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授

 私たちは、産出したレアアースで未来の日本が世界にどのような貢献をしていくのか端的にアピールするために、「東京オリンピックプロジェクト」、またの名を「江戸前レアアースプロジェクト」と呼ぶ構想を持っています。揚泥実証試験で引き上げた泥のうち、たった1000トン使うだけで、東京ドーム3200個分で利用されている量に相当するLED電球を作ることができます。また、ハイブリッド車ならば、1200台分を賄うことができます。

 こうした日本産のレアアースで作ったハイテク製品をオリンピックの施設や機材として使い、世界の環境問題やエネルギー問題の解決に寄与できることをアピールしていきたいのです。世界が抱える問題を解決する製品を、作り広める日本のものづくりの未来。しかも、10兆円、いや30兆円規模の産業を生み育てることができるポテンシャルを持っていると考えています。とても夢のある、しかも手の届く未来です。

――レアアース泥の活用は、日本にとって、また世界にとっても必然ですね。

加藤 環境問題やエネルギー問題に直面する現在の社会環境の中で発見されたレアアース泥は、日本だけに贈られたものではなく、人類全体に贈られたものだと考えています。そして、望むべくことはそれを生かす役割を日本が演じたいのです。

 これまでの日本の産業構造は、自国に天然資源がないことを前提としてかたち作られてきました。このため、突然見つかった自国の天然資源をどのように有効活用したらよいのか、考えるための経験が乏しいように思えます。南鳥島のレアアース泥の発見とその利用は、こうした日本の産業構造を変える潮目となるものです。資源を持ち、これを生かす世界戦略を持った資源国としての出発点となります。この夢のある未来に参加いただける企業や方々がさらに増えることを望んでいます。


東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム



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