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日本ゼオン、“夢の新素材”単層カーボンナノチューブを販売開始
新材料事業化のイノベーターとして

[2016/2/19]

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 2016年1月27日から29日までの3日間、「国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2016)」が東京ビックサイト(東京都台東区)で開催された。会場の入り口近くには、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の大きな展示ブースが設けられ、ここ数年間にNEDOが支援したナノテクノロジー分野の研究開発成果が多数展示された。
 NEDOブースに面する形で設置された日本ゼオンの技術展示ブースでは、同社が事実上、2016年1月から出荷し始めた単層カーボンナノチューブ(SCNT、商品名「ZEONANO SG101」)が展示され、同社が生産する単層カーボンナノチューブのお披露目となった。同社は、単層カーボンナノチューブをゴムに混ぜた複合材料が、これまでにない高性能を発揮することもアピールした。

 日本ゼオンが技術展示した単層カーボンナノチューブは、炭素原子が6角形状に結合した炭素1原子1層分の“網”を巻いたチューブで、“夢の新素材”と呼ばれ続けた新素材だ(図1)。この単層カーボンナノチューブの高効率な製造法を発明した産業技術総合研究所は「鋼の20倍の強さ、銅の10倍の熱伝導度、アルミニウムの半分の密度、ケイ素(シリコン)の10倍の電子移動度を持つ夢の新素材だ」と説明する。ただし、6角形状に結合した炭素原子網に破れなどの欠陥がほとんどない場合である。
 単層カーボンナノチューブが、こうした高性能な性質を持つことは理論上、知られていたことから、NEDOでは単層カーボンナノチューブの研究開発と事業化を長年にわたって支援してきた。その担当部署であるナノテクノロジー・電子・材料部は「軽量高強度材料や軽量電線、透明電導膜、軽量放射板などの用途開発がこれからはいよいよ始まる」と説明する。
 そのため、今回の「nano tech 2016」のNEDO展示ブース内にも、産総研ナノチューブ実用化研究センターが研究開発した単層カーボンナノチューブの開発成果も展示され、これと日本ゼオンの技術展示が呼応する仕組みになっていた。

 この“夢の新素材”のカーボンナノチューブの存在を発見した飯島澄男氏(名城大学終身教授、NEC特別主席研究員、産総研名誉フェローなど)は、ノーベル賞候補者として、毎年名前が挙がる人物だ。最近のノーベル賞は、実際に利用されて人類の役に立ったという実績を重視する傾向が強いといわれている。この点で、単層カーボンナノチューブは実際に利用されて初めて、その高性能ぶりが実証され、多くの人に感謝されそうだ。この点で考えると、単層カーボンナノチューブの用途開発はスタートラインに立ったばかりだ。

図1●単層カーボンナノチューブの模式図(出典は単層CNT融合新技術開発機構(TASC))
図1●単層カーボンナノチューブの模式図(出典は単層CNT融合新技術開発機構(TASC))

日本ゼオン、単層カーボンナノチューブ生産を開始

 日本ゼオンでは、2016年1月から高性能な単層カーボンナノチューブをkg単位で販売を始めた。生産開始にあたっては、2015年11月4日にNEDOと産総研、日本ゼオンがそろって都内で記者発表会を行っている。
 「単層カーボンナノチューブの量産工場が世界で初めて稼働する」という内容の記者会見場には、新聞や雑誌、Webサイトなどの各方面のメディア記者が多数出席した。会見では、産総研ナノチューブ実用化研究センターが量産技術開発の経緯を、日本ゼオンが工場稼働の予定日などを説明。その後、記者による質問が始まった。

 新材料系の発表における「生産規模と価格を伺いたい」という記者からの定番の質問内容に対して、日本ゼオン子会社のゼオンナノテクノロジー(東京都千代田区)の荒川公平代表取締役社長(図2)は「生産規模は公表していない。価格は1kg当たり200万円程度を目指している」と答えた。
 この答えは、高性能な単層カーボンナノチューブという新材料を世界で初めて効率的な生産法によって量産を始め、かつ、あるレベルでの品質保証が求められる材料メーカーとしての精一杯の答えだった。しかし、生産を始める新事業としての生産規模と事業計画は公表できないとの日本ゼオン側の回答内容に対して不満を漏らす記者は多かった。新材料の高性能さという点だけでは、事業開始という視点での記事が書きにくいためだった。
 この記者会見で、日本ゼオンは「11月11日に同社徳山工場内に設けたSGCNT製造工場の竣工式を開催し、生産を始める」と伝えた(図3)。この記者会見後の各記者による個別取材で、荒川社長は「11月半ばから生産を始めるが、まず一定量を在庫として確保し、品質保証もする必要があるので、実際には2016年1月からの出荷を始める」と説明した。さらに、「SGCNT製造工場を稼働させながら、同時に徹底した低コスト化対策を図り、kg当たりの単価を大幅に下げたい」と続けた。
 また、荒川社長は「日本ゼオンは本来、ゴムメーカーなのでゴムの大幅な性能向上を実現する複合材料を手がけたい」とも説明した。このゴム複合材料の製品化を目指すという説明の真意は、新材料である単層カーボンナノチューブの用途を自社でも切り開くという意味だった。新材料の事業化の最初の関門は、最初の用途探しになるからだ。自社での用途開発に成功すれば、一定規模の生産量が確保でき、SGCNT製造工場は安定した生産態勢に入ることができる。これによって、品質も安定し、品質保証も可能になると推定できる。

図2●日本ゼオン子会社のゼオンナノテクノロジーの荒川公平代表取締役社長
図2●日本ゼオン子会社のゼオンナノテクノロジーの荒川公平代表取締役社長
図3●日本ゼオン徳山工場内に設けられたSGCNT製造工場(出典:NEDO、日本ゼオン)
図3●日本ゼオン徳山工場内に設けられたSGCNT製造工場(出典:NEDO、日本ゼオン)

 平均直径3から5ナノメートル(nm)で繊維の長手方向にそろった“集合体”の長さが300から500ミクロン(μm)という単層カーボンナノチューブを、ゴムの中に均一に分散させる技術はかなり高度な技術となる。このため、「単層カーボンナノチューブをゴムの中に、あらかじめ均一に分散させた“マスターバッチ”と呼ばれる中間素材を、ゼオンナノテクノロジーは販売する」と荒川社長は説明する。この“マスターバッチ”をゴムに混ぜることによって、「各ユーザー企業は、ゴムの柔軟性を保ちながら、例えば電気伝導率が高いゴム複合材料を製造できる」という。
 このゴムの中に単層カーボンナノチューブを均一に分散させる技術は「単層CNT融合新技術開発機構(TASC)という2010年5月に設立された技術組合内で共同開発した技術だ」と、荒川社長はいう。同技術組合は、発足当初は日本ゼオンや帝人、住友精密工業、東レ、NECの5社と産総研が参加した(その後、追加参入などがあったもよう)。
「nano tech 2016の日本ゼオンの技術展示では、「単層カーボンナノチューブを質量比でゴム100に対して質量比で5混合し、うまく分散させると、耐熱性が約2倍向上する」(ゴムでは%表示ではなく独特の表示が業界標準)という性能図を展示していた。「150℃での引っ張り強さが約2倍に、120℃での定荷重時の疲労強さも約2倍向上する」という。現在、ゴムとしては、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、フッ素ゴムなどに対応する見通しだ。


日本ゼオン、量産化開発に参画し事業化に挑戦

 産総研のナノチューブ実用化研究センターの2世代前に当たるナノカーボン応用研究センターは、2004年11月に「スーパーグロース法」という単層カーボンナノチューブの効率的な量産法を発見した。現在、ナノチューブ実用化研究センターのセンター長を務める畠賢治氏は、単層カーボンナノチューブを合成する化学気相合成法の原料ガスの中に、ごく微量の水分を添加すると、従来法に比べて約1000倍以上、単層カーボンナノチューブが高効率に合成できることを見出したという成果だった。さらに、単層カーボンナノチューブの長さも従来品に比べて、500倍も長いものが合成できた(注:従来法との比較では“従来法”の数値をどうみるかによって多少、数値が多少異なる)。
 この高効率な化学気相合成法は、炭素と水素で構成されたメタンやエタンなどと水素ガスを混合した原料ガスが、鉄(Fe)などの触媒粒子表面で還元され、炭素原子がきれいに配列した単層カーボンナノチューブに育つという仕組みだ。その鉄などの触媒粒子表面は余った炭素原子などで覆われて、触媒機能が落ちてしまう。これに対して、水をppmレベルで添加すると、水が分解してできた酸素原子や水原子が触媒表面を覆った炭素原子を除去するという現象が起こることが明らかになった。
 このスーパーグロース法の合成法は「産総研が基本特許を出願し保有している点で、国際的に参入障壁はかなり高い判断している」と荒川社長は評価する。また、約600℃という高温で、水素ガスを取り扱うという点は、「かなり難易度の高いエンジニアリング技術であり、簡単には真似できない」という。
 産総研は、この高効率な単層カーボンナノチューブ生産法の基盤研究成果を実用化し、世の中の役に立ちたいと、当然考えた。しかし、画期的な研究成果ではあったが、事業化までの工程は長くかかると多くの材料企業が判断したようだった。実用化の共同研究先がなかなか見つからなかったのである。

 そこで、2005年6月、産総研でカーボンナノチューブの研究開発部隊を率いていた湯村守雄氏(現在、ナノチューブ実用化研究センター首席研究員)と畠氏の二人は、日本ゼオンで光学フィルムの開発を担当していた荒川氏を訪ねた。荒川氏は、以前は日機装でカーボンナノチューブの開発に従事し、関連するカーボンナノチューブ合成法の特許などを出願していた人物だったからだ。
 しかし、日機装はカーボンナノチューブの事業化を断念したために、「富士フイルムに転職して光学フィルムの開発に従事し、さらに2002年に日本ゼオンに転職して光学フィルムの開発を担当していた当時だった」と荒川社長はいう。湯村氏は日機装時代にカーボンナノチューブの事業化に熱心だった荒川氏を思い出し、訪問してスーパーグロース法の素晴らしさや可能性などを伝えた。
 ゴム・樹脂メーカーである日本ゼオンには、カーボンナノチューブのような無機材料製品の開発を手がけた経験はなかったが、荒川氏(当時は日本ゼオンの取締役)は「単層カーボンナノチューブの研究を産総研と組んで始めたい」と、当時の経営陣に提案した。独創的な新材料は新規事業の核になるとの思いからだった。かなりの紆余曲折があったが、当時の古河直純代表取締役社長(現・代表取締役会長)の直轄プロジェクトという形でなんとか研究を始めることが許可された。

 その後、日本ゼオンは、日本ケミコンや産総研などと2006年度から2010年度まで「キャパシター開発プロジェクト」という研究開発を進めた。NEDOの委託事業である同プロジェクトは、単層カーボンナノチューブを適用した電気二重層現象を利用するコンデンサーであるキャパシターを開発することを目指した。キャパシターは当時、研究開発が加速していた電気自動車向けの蓄電機器として注目されていたからだった。
 同プロジェクトに参加した日本ケミコンは、単層カーボンナノチューブを適用したキャパシターを試作した。と同時に、スーパーグロース法による量産化に向けた各要素技術の研究開発が進んだ。
 日本ゼオンは、このキャパシター用途での製品化に、現在も大きな期待を寄せている。「キャパシター用途向けでは、1kg当たり数100万円という価格で販売できる可能性があるからだ」と、荒川社長は語る。


実証プラントで量産化技術を磨く

 このキャパシター研究開発プロジェクトの開発成果によって、スーパーグロース法による量産化技術を生産量として1kg当たりという“大量生産”を検討する必要性が高まった。単層カーボンナノチューブを利用するユーザー企業にとっては、単層カーボンナノチューブをkg単位で安定供給する体制がないと、製品開発に本腰を入れることができないからだった。
 このため、産総研と日本ゼオンは、2011年度から産総研のつくばセンター内に量産法の実証プラントをつくるプロジェクトを始めた。この実証プラント開発は、経産省と産総研が当時進めていたTIA-nano拠点事業の一環として実施された。産総研と日本ゼオンは、この実証プラントで生産した単層カーボンナノチューブを、kg単位で想定ユーザーなどにサンプル供給し、ユーザー企業による用途開発の促進を目指した。2013年度からは日本ゼオンが単層カーボンナノチューブをkg単位でサンプル供給する態勢に移行した。
 この実証プラントでの量産化技術を会得したとの判断の下、日本ゼオンは生産プラントの検討に入った。2014年4月に日本ゼオンの取締役会で生産プラントの建設が了承され、6月から工場建設に着手した。この工場の投資額は38億円と推定されている。2015年10月に工場は竣工し、翌月の11月から稼働し始めた。いくらかつくり貯めをするために、事実上は2016年1月からの出荷となった。


社内にイノベーター私塾を設立

 今回、単層カーボンナノチューブの生産プラントを設ける過程で、荒川社長は新事業開発に挑むイノベーター人材づくりの重要性を痛感した。このため、日本ゼオン内に「私塾的な存在で、新製品開発や新規事業起こしに挑むイノベーター人材づくりを強化している」という。現在、事業収益の中心である事業にも寿命はある。
 「会社の寿命は30年」という見方からも、既存事業が好調な内に、次世代の事業開発を仕込んでおかないと、将来は不透明になるからだ。
 現在始めている新製品開発や新規事業起こしイノベーター人材づくりによる萌芽プロジェクトの中には、「幸いにも単層カーボンナノチューブに関連するものが2件ある」という。特に意図した訳ではないが、もし単層カーボンナノチューブ関連の中から、用途開発につながるものが出てくれば、新用途として販売量が増える可能性もある。荒川社長にとっては、単層カーボンナノチューブの用途拡大が最大の関心事になっているからだ。
技術ジャーナリスト 丸山正明




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