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国産レアアース開発は、海底鉱物資源開発という新産業確立を意味する
東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム第3年度活動報告会

[2017/12/6]

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 2017年10月24日、「東京大学 レアアース泥開発推進コンソーシアム」の第3年度活動報告会が同大本郷キャンパス・福武ラーニングシアターで開催された。本コンソーシアムは、日本の排他的経済水域内にある南鳥島周辺の海底で発見された超高濃度レアアース泥の開発を目指している。報告会の後半では、5つの専門部会が活動報告を行った。第3年度に新設された「新素材部会」からの報告も行われ、将来の産業利用を目指し、産学連携による新素材開発に向け抱負を語った。本コンソーシアムで座長を務める東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンターの加藤泰浩教授は、さらに研究を大きく加速させるために政府の研究支援プログラムの採択を目指していると語り、新たなプロジェクト体制案を示した。また、国産レアアース開発を通じて、ものづくりなどへの産業活用のみならず、「海底鉱物資源開発」という新たな産業分野を確立することへの意義を強調した。

環境に配慮した評価手法、最新・最適な観測技術の確立を目指す
(探査・モニタリング・環境部会)

東京大学大学院工学系研究科 中村謙太郎 准教授
東京大学大学院工学系研究科
中村謙太郎 准教授

 前年度までの「探査部会」に新たに環境影響評価というミッションが加わり、「探査・モニタリング・環境部会」と名称を変更した。この部会には、深田サルベージ建設、日本エヌ・ユー・エス、商船三井、マリン・ワーク・ジャパン、日本郵船が参画している。登壇した東京大学大学院工学系研究科の中村謙太郎准教授からは、主に新テーマである環境影響評価の進め方について報告が行われた。

 環境影響評価の主な対象は、「表層」、「中層」、「海底」の3つ。「表層」では超音波による騒音、光、排水。「中層」では輸送管からの漏水、排水。「海底」では採掘による破壊、堆積物プルームとその再堆積、さらに光、排水、騒音、振動がテーマとなる。中でも中村教授は、環境への影響という点で「海底部分の影響評価がもっとも重要」と説明する。

 現在、本部会では環境保護のために必要とされるアクションを「探査〜テストマイニング段階における環境調査」と「開発段階における環境保護区の設定」という2つのフェーズに分けて検討を行っている。「探査〜テストマイニング段階」では、(1)環境ベースライン調査(自然状態の把握)、(2)探査活動による環境影響を評価するためのモニタリング、(3)テストマイニング(採泥・揚泥)実施中および事後のモニタリング、の実行を想定している。「開発段階」では、(1)開発の影響が及ばない場所に保護区を設定する、(2)環境影響調査の結果から、保護区の数、大きさ、場所を決定、の実行を想定している。

 その上で、本部会では具体的な「評価手法」、「調査技術」の検討を進めているが、ポイントの一つに効率化がある。
 例えば、評価手法ではISA(国際海底機構)が採択・制定する他の海底鉱物資源の国際的環境影響評価基準とどこまで共通化できるか。また、調査技術では既存データや解析手法を用いることで効率の良い観測手法を導入することなどがテーマとして挙がっている。

 レアアース泥は新しい海底資源であり、ISA(国際海底機構)などの場でも詳細な議論が進んでいない部分が多い。その意味からも中村准教授は、「この部会で議論・検討を進め国際基準を踏まえた最適な環境影響評価プランとそのための最新・最適な観測技術を提示したい」と意欲を見せた。

まずは、大型実験設備で50m、200mからの実験を開始
(採泥・揚泥部会)

 「採泥・揚泥部会」には三井海洋開発、日本海洋掘削、東亜建設工業、深田サルベージ建設、商船三井、スターライト工業、日鉄住金総研、古河機械金属、日本郵船、日揮、三井造船、三井住友建設の民間企業のほか、国の研究機関から海洋研究開発機構(JAMSTEC)、海上・港湾・航空技術研究所が参画し、レアアース泥の採泥・揚泥の技術開発を進めている。
 採泥・揚泥技術は、水深数千mの海底に眠るレアアース資源開発において、重要な役割を担っており、本コンソーシアムのプロジェクトの肝と言われている。
 海底資源の引き上げには大きく「ポンプリフト」と「エアリフト」の2つの方式がある。このうち研究開発が進んでいるのはポンプリフト方式と言われているが、本コンソーシアムではメンテナンスの容易さ、それに伴う全体的なコストバランスを考え、エアリフト方式に照準を絞った研究開発に取り組んでいる。

東京大学大学院工学系研究科 木周 教授
東京大学大学院工学系研究科
木周 教授

 実験室レベルでの研究を終え、次なるターゲットは大型実験設備での実証実験によるデータ取得だ。いくつかの候補地が検討された中、産業技術総合研究所の施設内で、200mの立型水槽を用いた実験に向けた準備を進めている。
 予定している実験設備は200mの立型水槽内に口径300mmのケーシングを入れ、さらにその内側に口径100mmのエアリフト管を設置して揚泥実験を行うというもの。まず、本年度中に深度50mの実験を実施。その後、深度を徐々に伸ばして来年度初めには200m実験を行い、レアアース泥引き上げ用シミュレーションコードの開発のための基礎データを取得したい考えだ。
 「深度200mでの実験で得られたデータを基に開発されたシミュレーションコードを用いて、次に水深1000m、3000mでの実証実験を行いシミュレーションの妥当性を評価。その後5000m以深の実海域実験へとつなげていきたい」(東京大学大学院工学系研究科・木周教授)。

 実海域実験に向けた課題として、海底に降ろすライザー管が実験設備での垂直状態とは異なり斜めに傾くため、そうした状況下でのレアアース泥の流動特性の把握、さらには海底面での採泥技術の開発が必要となる。この点について木教授は「海上技術安全研究所が持つ大型水槽施設などを用いた実験によってデータを取得することで対応は可能」だと説明した。

 木教授らはレアアース泥だけではなく、同時に同じく南鳥島沖EEZ海底で発見されているマンガンノジュールも一緒に揚鉱する技術についても検討するなど、他の海底資源も広く視野に入れた研究開発を進めている。その実現に向けては、1000m、3000mクラスの実験によりシミュレーションコードの精度を上げ、実海域での早期の実験実施が望まれる。

液液分離法により、低エネルギーでの海底選鉱と揚泥を実現
(選鉱・製錬部会)

東京大学大学院工学系研究科 藤田豊久 教授
東京大学大学院工学系研究科
藤田豊久 教授

 採掘した泥からいかにして効果的にレアアースを抽出するか。「選鉱・製錬部会」には、三徳、信越化学工業、三井金属鉱業が参画し、その技術的課題についての検討が進められている。

 東京大学大学院工学系研究科の藤田豊久教授らの研究で、現在発見されているレアアースは20μm以上の粗粒子に3000ppm以上の高い濃度で存在することが分かっている。本部会ではこの特性を活かし、サイクロンやデカンタなどでの遠心分級を提案。20μm以上の粒子は泥の35〜45%程度を占めるため、「海底内での分級が実現できれば、引き上げる泥の量をその分大幅に減量できる」(藤田教授)という。

 レアアースの選鉱方法としては「液液分離」、「浮選」、「磁選」、「浸出法」などがあるが、本部会では海底でのレアアース泥の処理法のひとつとして、液液分離法を応用した選鉱・揚泥法を提案する。具体的には、流体モーター駆動ねじポンプで海底を掘進。同時にレアアース濃度が高いアパタイト成分を油滴に吸着させ、油滴の浮力を利用してアパタイトを船上へと回収する方法だ。藤田教授は「この方法により低エネルギーでの海底選鉱と揚泥が期待できる」と説明する。
 また、同時に海底のレアアース濃度の高い地層にダウンホールモーターで横穴を掘り、パイプを通じで浸出液を送る手法も提示。そこでレアアースを浸出させ、その浸出液のみをエアリフトなどで船上へと引き上げるもので、引き上げられた浸出液は吸着・イオン交換法で濃縮後、溶媒抽出によって効果的にレアアースを回収できるという。

 今後の課題として藤田教授は「パイロットスケールでの検討を行う必要性がある」としている。

リサイクル資材としてのレアアース残泥焼結体、物性評価、環境評価を実施
(残泥処理部会)

 「残泥処理部会」では、リユース、リサイクル、リデュースの3Rの視点からレアアース泥の残泥処理の検討を進めている。本部会には、東京工業大学、太平洋セメント、東亜建設工業が参画している。

東京工業大学大学院理工学研究科 北詰昌樹 教授
東京工業大学大学院理工学研究科
北詰昌樹 教授

 東京工業大学大学院理工学研究科の北誥昌樹教授らは、残泥そのものの発生を抑えるために分級・濃縮についての研究も行っている。
 ハイドロサイクロンを用いて、レアアース濃度の高い粗粒分のみを取り出す実験では、有意な減容効果とレアアースの品位向上を実現できたという。同時に海底内を想定した水中での分級・濃集実験も行っており、気中と同等の減容化効果も確認している。
 また、レアアースの殆どは泥水のアンダーフロー部分に集中するため、北詰教授によると、海底面でアンダーフロー部分だけを引き上げることで、残泥量そのものを大幅に減らすことができるという。

 リサイクル資材として活用が期待されるレアアース残泥焼結体については、これまでの物性評価に加え、水槽実験による生物への環境評価を実施。さらに、南鳥島周辺の実海域に試験体を投入したサンプリング調査も行っている。
 数カ月におきに試験体を回収し状態を調べたところ、焼結体表面に藻類の着生、貝類など底生生物の存在が確認できた。この結果を受けて、北詰教授は「様々な生物が着生する土工機材として使用できることが確認できた。さらに改良を加え、試験を継続していきたい」と今後の展望を語った。

新たな産学連携の形から新素材の可能性を追求
(新素材部会)

 「新素材部会」は本コンソーシアムの第3年度から新たに活動を開始し、今回が初めての報告となった。この部会には、青山学院大学(理工学部 長谷川美貴教授がリーダー)、三徳、東京電力HD、トヨタ自動車、日亜化学工業、日鉄住金総研、根元特殊科学、三井金属鉱業、千葉工業大学が参画している。また、アドバイザーとして関わっている大阪大学の足立吟也名誉教授も加わり、レアアースによる材料開発の可能性を探っていく。
 レアアース泥開発が単なる海洋開発ではなく、実社会における活用を見据えたものになるという意味で本部会の活動への期待は大きく、本部会の新設はコンソーシアム自体の活動が新たなフェーズに入ったことを示していると言える。

青山学院大学理工学部化学・生命科学科 長谷川美貴 教授
青山学院大学理工学部化学・生命科学科
長谷川美貴 教授

 レアアースには発光性能、強磁性などがあることが知られており、創薬分野での触媒、電気自動車のモーターなどのほか、生体診断のための水溶性の発光体などの用途が期待されている。活動報告を行った青山学院大学理工学部の長谷川美貴教授は「学術研究を産業利用に加速するための調査が必須。本部会を通じた産学の交流によって、あらかじめ目的を決めて集う産学連携とは異なる新テーマが生まれる可能性がある」と大きな期待を寄せる。具体的には、これまでの議論を経て「赤色の超残光体開発などは原理確立(学術)と社会需要(産業)が直結した良い課題だろう」と語った。

 今回の報告では、自らの研究分野である錯体化学の視点からレアアースによる新素材開発に対する期待も示唆した。
 「例えば、サマリウムやジスプロシウムには磁力、発光性能があるが、これらを錯体化学によるアプローチで分子設計することで、光る磁石としての可能性が見出せる」と説明。また、レアアースは構造上、分子設計が不可能だとされてきたが、長谷川教授らの研究では「レアアースに螺旋状に有機分子を腹巻のように施すことで柔軟な分子設計が可能になる」と言う。
 学術論文の数などを見ても、これまでレアアースで研究が進んでいるのはユウロピウム、テルビウムなど一部の元素。その意味でも「学術的な議論が進んでおらず、レアアース元素はまだまだ多くの可能性を残している。レアアースは、私たちの未来を照らす材料の要になる」(長谷川教授)。

サプライチェーン構築に向け、より強固で柔軟な研究開発体制へ

 活動報告会の最後には、本コンソーシアムで座長を務める加藤教授から今後の進め方について説明した。本コンソーシアムにおける研究開発を大きく加速させるために、次期SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の活用を検討しており、採択を目指すという。SIPの期間内での実海域での揚泥実証実験を成功させたい考えだ。

東京大学大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授
東京大学大学院工学系研究科
加藤泰浩 教授

 SIPによる実施項目は、基礎調査、開発技術、産業化技術の大きく3つに分けられており、本コンソーシアムでは次のような実施を検討している。
 基礎調査では、船上サブボトムプロファイラ(SBP:地層探査装置)調査で絞り込まれた海域に対し、高解像度の深海SBPによる調査を行い、超高濃度層が露出する最有望海域を特定。その海域をより詳しく調査することで、資源評価国際基準であるJORCコードに基づいた資源量評価を行うとしている。加藤教授は「これが実現すれば世界で初めてJORCコードを海底鉱物資源に適用した例になる」と意欲を見せる。
 開発技術では、揚泥システムとともに採泥技術の開発を加速させるとしている。具体的には、港湾などの浅海浚渫に用いられる水中バックホウ技術を6000mクラスの大深水対応などの開発を進め、「SIP期間内で実海域での採泥・揚泥実験を実現させたい」(加藤教授)としている。
 産業化技術では、すでに検討が進んでいる製錬および泥処理フロー、環境資材への応用をさらに発展。SIP期間内にLED、Nd磁石、SOFC用セラミックなど試作品の作成・評価を行い、製錬から製品化、および泥処理に至るまでの処理フロー確立を目指す。

 加藤教授からは、次期SIP採択に向け、新たなプロジェクト体制についての案も示された。マネジメント会議を頂点に研究計画の調整・評価を行う推進委員会、予算・課題管理を行う管理法人を置き、その下に実施項目内のテーマ別に研究開発チームを置く形だ。また、各研究チームには「レアアース泥開発推進技術研究組合」を設置。これによって、「実用化などに向けた会社組織への移行をスムーズにできる」と加藤教授は説明する。

 最後に、加藤教授は南鳥島でのレアアース泥開発の実績は「海底鉱物資源開発という新たな産業分野を確立することになる」として、「他海域への世界展開」、「技術の水平展開による他の海洋鉱物資源開発への拡張」ができると、このプロジェクトの意義を示した。そのためにも、このプロジェクトにおいて「『採掘』から『ものづくり』まで、国家戦略として一連のサプライチェーンの構築を目指していきたい」とし、第3年度活動の報告を終えた。



東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム

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「東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム」資料


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