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システム全体を横断的に議論、検討チーム新設で経済性も精査
東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム 第4年度活動報告会

[2019/1/23]

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 2018年10月30日、「東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム」の第4年度活動報告会が同大学本郷キャンパス・福武ラーニングシアターで開催された。内閣府が公表した次期戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「革新的深海資源調査技術」において、レアアース泥を含む海洋鉱物資源の技術開発が主要目標に掲げられている中、産官学連携で先行する本コンソーシアムの五つの専門部会(「探査・モニタリング・環境」、「採泥・揚泥」、「選鉱・製錬」、「残泥処理」、「新素材」)から最新の研究報告が行われた。
 本コンソーシアムの座長を務める東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩教授は、「4年間にわたる活動で多くの議論、研究が尽くされてきた」とし、この11月から始まる第5期の大きなテーマとして「部会横断による開発システムの構築と経済性評価」を掲げた。各要素技術に関する知見を総括し、経済性を精査して開発システムの全体最適化を図っていく。

コンソーシアムの様子

採泥・揚泥技術開発と環境影響評価は両輪、環境影響評価を本格化
(探査・モニタリング・環境部会)

東京大学大学院工学系研究科 中村謙太郎 准教授 藤泰浩 教授
東京大学大学院工学系研究科
中村謙太郎 准教授

 「探査・モニタリング・環境部会」からは、東京大学大学院工学系研究科の中村謙太郎准教授が研究報告を行った。本部会には深田サルベージ建設、日本エヌ・ユー・エス、商船三井、マリン・ワーク・ジャパン、日本郵船が参画している。
 これまで本部会では主に南鳥島EEZ海域でのレアアース泥の埋設状況の探査・モニタリングを行ってきた。しかし、「実海域での作業を見据える上では、環境影響評価手法の検討を同時に走らせないと開発自体の行程にも影響が出てくる」(中村准教授)ことから、昨年度より新たに「環境影響評価」をテーマに加え、その手法、仕組みの確立の検討をスタートさせている。
 現在、本部会では国際海底機構(ISA)で改訂が進められている「海底鉱物資源に関する環境影響評価ガイドライン」に沿って評価手法の研究を進めており、大きく「探査〜テストマイニング」、「開発」の2段階で環境に関するアクションを検討している。具体的には探査〜テストマイニング段階では環境影響調査(モニタリング)、開発段階では環境保護区の設定だ。 同ガイドラインには、レアアース泥の採泥・揚泥に関する規定は明記されていないが、「部会としてはマンガンノジュールを参考に、観測項目、採取すべきサンプル・データなどの独自のリストを作成している」(中村准教授)。まず、必要となる環境ベースライン調査では、3カ年をかけて年1回、季節を変えて海域調査を実施。その環境影響評価を踏まえて実証時のモニタリングへと移行させたい考えだ。
 内閣府が新たに取り組む第2期戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「革新的深海資源探査技術」プロジェクトでは2021年度から実海域で採泥・揚泥実験を行い、徐々に深度を深くしていくとしているが、これについて中村准教授は「試験実施海域が複数になる場合、環境モニタリングもそれに応じて複数海域で実施する必要があるので、注意が必要になってくる」と指摘した。
 「採泥・揚泥技術開発と環境影響評価は車の両輪であり、開発システムに即した環境測定機器、方法の検討を行い、必要に応じて開発システムについて環境面からもコメントを出し、環境負荷の低いレアアース泥開発システムを実現させたい(中村准教授)。

深度50mの揚水実験に成功、第5年度の活動に弾み
(採泥・揚泥部会)

東京大学大学院工学研究科 木周 教授
東京大学大学院工学研究科
木周 教授

 「採泥・揚泥部会」には、三井海洋開発、日本海洋掘削、東亜建設工業、深田サルベージ建設、商船三井、スターライト工業、日鉄住金総研、古河機械金属、日本郵船、日揮、三井E&Sホールディングス、三井住友建設といった企業のほか、海洋研究開発機構、海洋・港湾・航空技術研究所が参画し、採泥・揚泥技術の開発を進めている。
 登壇した東京大学大学院工学系研究科の木周教授からは、エアリフト方式による技術開発の進捗状況が報告された。エアリフト方式は泥水に気泡を含ませてレアアース泥を地上に押し上げる仕組み。ポンプリフト方式に比べてエネルギー効率は低いが、仕組み自体がシンプルでコンプレッサーを船上に配置できるなど運用性、メンテナンス性などで強みがある。一方、課題となるのは泥水に混ぜた気泡が引き揚げる過程で膨らみ大きくなってしまうこと。水深6000mでは地上の600倍の圧力がかかり、そのまま引き揚げれば体積が600倍に膨らんでしまう。そこで重要なのが「水深が深くなりすぎず、エアリフト効果を十分に得られる深さで効果的に気泡を注入すること」(木教授)だ。
 本技術開発は経済産業省から委託を受けた独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構の委託事業として2017年度から本学の高木研究室が受託し実施している。これまで、2015年に10m級揚泥実験についてのアドバイザリーや、2016年のシミュレーションコード開発検討なども行ってきたが、2018年2月には同委託事業において、屋外実験施設で50m級の揚水実験に成功した。その模様が動画を交えて紹介された。その際の実験では産業技術総合研究所つくば西事業所にある深度200mの立型水槽に保護用の外管を設置し、その内側に約50mのエアリフト管を設置して圧縮空気を送り込み、揚水時の気泡や水の流れなどを超音波流速計で測定している。同実験では空気量を様々変化させ約1週間にわたって実験と測定を行い、「5〜20Nm3/分の空気注入量に対し、最大で2m3/分の揚水量という期待以上の成果を達成できた」(木教授)という。
 2018年度は深度をさらに下げて200m級のエアリフト管による実証実験を予定しており、木教授は「200m級揚水実験では過去にマンガンノジュールで用いられたシミュレーションモデルがあり、それらを上手く活用して200m級の揚水実験を成功させたい。次に模擬泥を用いた実験へと移行して今後の技術開発につなげたい」と抱負を述べた。

高品位レアアース泥の選択回収技術を開発
(選鉱・製錬部会)

東京大学大学院工学研究科 藤田豊久 教授
東京大学大学院工学研究科
藤田豊久 教授

 採泥した泥から効果的にレアアースを回収するための研究開発を進める「選鉱・製錬部会」には、三徳、三井金属鉱業、日揮、信越化学工業が参画している。登壇した東京大学大学院工学系研究科の藤田豊久教授からは、選鉱・製錬技術の概要が紹介された。
 本部会ではあらかじめレアアース濃度の高い粒子のみを選別・抽出する方法を検討している。着目したのが粒径の大きい生物源リン酸カルシウム(BCP)鉱物に高濃度レアアースが多く含まれていることだ。粒径別のレアアース濃度を調べたところ20μmを超える粒度でレアアース濃度が大きく上昇。泥重量の大半は20μm以下になるため、20μm以上の粒度を境に泥を分離することで効果的にレアアース泥を回収できることが分かった。藤田教授らはこれをもとにハイドロサイクロンを用いレアアース泥の粒径選別試験を実施。粒径20μm以上のみのレアアース泥を回収したところ、最大でレアアース濃度を260%向上でき、約9000ppmでの回収に成功した。「引き揚げる泥の量を大幅に減らすことができ、経済性から見てもレアアース泥の実開発を強く後押しできる成果」だと藤田教授は自信を示した。
 一方、本部会では海底でのレアアース泥の選鉱手法として液液分離法による処理も研究している。具体的には海底で採取したレアアース泥スラリーにエマルジョンを吹きかけ、レアアース濃度の高いアパタイト成分を油泡に吸着させて浮上させるという方法だ。藤田教授はこの手法を応用することで、「流体モーター駆動ねじポンプを用い、ドリルの穴からエマルジョンを排出させてアパタイトを油泡に付着させて吸い込み、泥と分離して引き上げる回収方法も考えられる」と説明。また、レアアース泥の場合、粘度が非常に高く酸浸出によって抽出することは難しいとされていたが、本部会では希酸による浸出実験を行い、レアアース濃度の高いアパタイトのみを選択的に回収することにも成功している。藤田教授は液液分離と同様、海底で流体モーター駆動ねじポンプを用いて「水平掘進しながら酸抽出液を流し込み、浸出した液をエアリフトなどによって船上に引き揚げることで高効率にレアアース泥の回収ができる。今後はパイロットスケールの研究に移行したい」と報告を結んだ。

南鳥島海域でリサイクル骨材の曝露実験を実施、生物が着生
(残泥処理部会)

東亜建設工業 森澤友博 氏
東亜建設工業
森澤友博 氏

 「残泥処理部会」には東京工業大学、太平洋セメント、東亜建設工業が参画し、レアアース抽出後の残泥処理方法の研究開発を行なっている。
 報告にはまず東亜建設工業エンジニアリング事業部担当課長の森澤友博氏が登壇。これまで本部会で進めてきたリユース、リサイクル、リデュース、それぞれの取り組みと成果が報告された。具体的にはリユースでは残泥から水分を抜きセメント固化させることで地盤材料など港湾土木分野への応用を検討している。リサイクルでは焼成、溶融現用処理による骨材化、リデュースでは「選鉱・製錬部会」とも協力し、分級濃縮によって処理量の大幅減とレアアース高濃度化にも成功している。
 次に登壇した太平洋セメント中央研究所 第3研究部 分離技術チームの小松浩平氏からは、このうちのリサイクル分野の取り組みとして、現在、南鳥島で実施されている骨材の曝露実験について経過報告が行われた。

太平洋セメント 小松浩平 氏
太平洋セメント
小松浩平 氏

 実験はサンゴ礁基盤材など環境資材への利用を想定し、塩酸処理後のレアアース残泥を焼成処理して骨材化。それを南鳥島の実海域に曝露して生物着生状況などを1年間にわたって継続的に調べた。昨年も同様の実験を行なったが、荒天の影響から試験体が漂流してしまいサンプル数が少なかったことから、改良を施し今年2月から改めて実験をスタートさせた。台風など今年も荒天に見舞われたが現段階でサンプルの流出などはなく、2カ月一度のペースで確認する藻類、生物の着生状況も7カ月経過の段階で固体種類数7、個体数457を確認できたという。今年8月、昨年流出した試験体が南鳥島沖に漂着したため回収し、それを調べたところ着生状況は固体種類数4、個体数16だったことから、「海底に固定することで様々な生物が着生する機材として利用できると考えられる」(小松氏)という。曝露実験は2018年12月まで継続し、その結果をもとに詳細な分析・検討が行われる。

様々な角度からレアアースによる新材料開発を推進
(新素材部会)

青山学院大学理工学部 長谷川美貴 教授
青山学院大学理工学部
長谷川美貴 教授

 昨年度に新設された「新素材部会」は青山学院大学、三徳、東京電力ホールディングス、トヨタ自動車、日亜化学工業、YAMAGIWA、日鉄住金総研、根本特殊化学、三井金属鉱業、積水化学工業、千葉工大が参画。アドバイザーに大阪大学の足立吟也名誉教授が加わりレアアースによる新材料開発を目指した研究活動を行っている。
 本部会ではこれまで4回の研究会を開催し「学界(学術)と産業の隙間調査」、「資源リスクと基盤材料開拓」、「超残光発光体の現状と課題」、「セシウム系素材の現状と展望」といったテーマで議論を行ってきた。登壇した青山学院大学の長谷川美貴教授は、これまでの議論を通じ「従来にない産学連携の共同研究体制がつくれるのではないかと考えている」とその手応えを示した。
 レアアースは電気自動車のモーターなど次世代エネルギー分野のほか、生体診断のための水溶性発光体への応用などが期待されている。こうしたレアアースの持つ可能性を材料開発に結びつけるには、その性質を効果的に引き出す必要があるが、レアアースはその性質を司る電子が内殻にあるため、これまで分子設計が難しいとされてきた。しかし、長谷川教授は自身の研究分野である錯体化学からアプローチすることで「有機分子にためたエネルギーをレアアースに移動させるなど、柔軟な分子設計も可能」だと説明する。例えば、長谷川教授はレアアースの周りに有機分子が螺旋状(腹巻き状)に巻きつく有機錯体開発に成功しているが、この手法を応用すればレアアースの種類が異なる錯体を直線状につなぎ、その物性を制御することもできるという。
 レアアースの大きな特徴に強磁性のほか発光特性があるが、その仕組みは一般的な有機分子の光吸収、発光とは異なり制御の原理が未確立の部分も多い。長谷川教授は新学術領域として注目されるソフトクリスタル研究にも参画。ここではレアアース錯体を用いたソフトクリスタルの界面制御による光物性の開発を進めており、「今後はこうした最先端の研究成果を交え、様々な角度からレアアースによる新材料開発を進めたい」としている。本部会を学術分野に加え、材料、中間体、製品などレアアースの材料開発に関わる様々な立場が集う「超分野レアアース素材開発を実現するチーム」と表現し、日本の海からレアアース新材料を生み出すためにチャレンジしていきたいと抱負を述べた。

社会実装に向けて経済性評価が重要課題

東京大学大学院工学系研究科 加藤泰浩 教授
東京大学大学院工学系研究科
加藤泰浩 教授

 活動報告会の最後には、本コンソーシアムで座長を務める加藤教授が登壇し、まとめと次年度以降の進め方について説明した。
 「4年間にわたる活動で多くの議論、研究が尽くされてきた。今後は各部会個別の検討とともにレアアース泥の採泥から製品化までを見通したシステム構築を進めていきたい」と語り、第5期の大きなテーマとして「部会横断による開発システムの構築と経済性評価」を掲げた。中でも「社会実装に向けては経済性評価が最重要課題だ」として、コンソーシアムの統括班内に「経済性検討チーム」を設置。各要素技術に関する知見を総括し、経済性を徹底的に精査して開発システムの全体最適化を図っていくという。例えば、製錬過程のコストについては、レアアースのリーチング (抽出) に用いる試薬の占める割合が大きい。処理すべき泥の量や、選鉱の手法・タイミングなど、開発システムを構成する諸要素および全体システムの設計がレアアース泥開発の経済性に与える影響を、様々なパラメーターテストによって徹底的に洗い出していく。採泥・揚泥であれば、これまでのエアリフト研究に加えてポンプリフトとのハイブリッド化なども含めて検討するとしており、「経済性評価から逃げることはしない」(加藤教授)と全体システム最適化に強い決意を示した。
 また、加藤教授は南鳥島EEZの調査で分かった「海底マンガン酸化物鉱床とレアアース泥の成因的関連性」についても報告。南鳥島EEZ内にはレアアース泥に加えて、広くマンガンノジュールが分布していることを改めて強調した。マンガンノジュールは電気自動車の普及などを背景として、需給の逼迫が心配されるコバルト資源として有望なことから、「南鳥島のコバルトはハワイ沖の2倍の品位があり、十分にその供給源になり得る。レアアース泥だけでなく、マンガンノジュールも含めた一体的な開発を提案していきたい」という計画を示した。



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