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化合物の肝臓毒性を高精度に予測,東工大
システムの完成度を高め,国際標準化を目指す


[2006/02/20]

 医薬品候補化合物の肝臓毒性を予測するスクリーニング・システム(写真)と構造活性相関解析方法を,東京工業大学大学院生命理工学研究科生体分子機能工学専攻教授の石川智久氏らの研究グループが開発した。この毒性予測システムにより,研究開発のごく初期段階で化合物の毒性(薬物性胆汁鬱滞)を評価することが可能になる。早期に,毒性に問題のある化合物をスクリーニングで同定し,分子構造を改変することで,医薬品の研究開発期間の短縮,安全性向上などが実現する。
 これまで化合物の毒性評価は,動物実験を中心とする前臨床試験が一般的だった。研究開発の初期段階における毒性予測システムが確立されていなかったからだ。そのため,毒性を示す化合物を研究開発の初期段階でスクリーニングできず,有望な化合物に研究資源を集中することが難しかった。また,ヒトに対する毒性を的確に予測することが難しく,新たな毒性予測システムの開発が求められていた。
 今回,毒性予測システムが開発されたことで,創薬研究における新たなスクリーニング・システムが実用化される可能性が見えてきた。石川氏は,「研究開発早期に肝臓毒性を予測できれば,研究資源を効率的に活用できる。より安全性の高い医薬品を開発できるだけでなく,治験段階や上市後の撤退による経済的損失を防止でき,経営や株価の安定にもつながる」とコメントしている。今後,研究グループではシステムの完成度を高め,国際標準化を目指していく方針である。

写真:スクリーニング・システム
スクリーニング・システム写真

肝臓毒性を回避する薬剤設計を可能に
 今回の毒性予測システムは,スクリーニングした化合物を構造活性相関解析することで,肝臓毒性の誘因となる化合物の構造上の問題を特定する。具体的には,胆汁酸トランスポーターと呼ばれる輸送たんぱく質と化合物との関係から,肝臓毒性を予測する。トランスポーターは,細胞膜で様々な物質の取り入れや排出を行うたんぱく質で,医薬品の薬効や副作用,毒性などとの関連が指摘されている。胆汁酸はトランスポーターによって排泄される物質の1つで,化合物やその代謝物が,このトランスポーターに結合し機能を阻害すると,胆汁酸が肝臓に蓄積し肝臓毒性を引き起こすと報告されている。
 そこで,研究グループでは,新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO技術開発機構)国際共同研究助成事業(NEDOグラント)の一環として,肝臓や腎臓などにある重要な十数種類のトランスポーターと50種類の化合物を対象に解析を進めた。まず,胆汁酸排泄に関わる2種類のトランスポーターと毒性の関連を確認した。次に,構造活性相関解析を実施した。化合物がどのような構造単位(メチル基,エステル基,リング構造など)を有していると,これらのトランスポーターの機能を阻害するかを解析,強い阻害活性を示す6種類の共通構造単位(ケミカル・フラグメント・コード)を見出した。
 今回確立した構造活性相関解析方法は,これらのケミカル・フラグメント・コードを基準にして計算することで,化合物の胆汁酸排泄阻害活性を定量的に解析できる。例えば,トログリタゾン(糖尿病治療薬。2000年に肝臓毒性のため販売中止)を評価した結果,「胆汁酸の排泄阻害予測値が80%だったのに対し,実測値は90%。ほぼ一致することを確認した」(石川氏)と言う(図1)。
 さらに,薬剤設計する上で重要な情報となる,毒性に関与する構造単位を特定できる。石川氏は,「化合物の構造上の問題を特定し,そこを改良することで,肝臓毒性を回避する薬剤設計が可能になる。創薬の初期段階での毒性評価や,ドロップアウト(毒性や副作用などで研究開発が途中で中止すること)した化合物への適用などにより,研究の効率化が図れる」とコメントしている。 

図1:トログリタゾンのトランスポーター活性阻害予測値と実測値
トログリタゾンのトランスポーター活性阻害予測値と実測値

トレーニング・セミナー,SNP解析を通じてシステムの完成度を高める
 今後,石川研究グループでは,薬物トランスポーター測定法として国際標準化を目指していく。この達成に向け,産学官の共同開発プロジェクトを発足し,(1)ニーズに応じたシステムの改良を進めるとともに,(2)トランスポーターの遺伝子多型に関するデータを加え,システムの完成度を高めていく方針である。
 (1)に関しては,NEDO技術開発機構,日本農産工業らと共同で薬物トランスポーター測定法のトレーニング・セミナーを開催していく。製薬企業のほか試薬,機器メーカーなどを対象に,3〜4回/年の開催を予定しており,2006年2月27日に第1回のセミナーを開催する。「セミナーを通じて,実際のユーザー・ニーズを把握し,それを基に改良を加えることで,市場のニーズにあった国際標準が確立される。さらに研究室への研究者の派遣も積極的に受け入れ,ユーザーとともにシステムの完成度を高めていく」(石川氏)と意気込みを語る。
 (2)に関しては,SNP(一塩基多型/代表的な遺伝子多型で,個人差を左右している)を持つトランスポーターと化合物との構造活性相関解析を進めている。NEDOグラントの国際標準創成分野として進めており,東工大の他,米カリフォルニア大学,ハンガリー国立医療センターなど,7カ国の研究機関,企業が参加している。
 SNPによりトランスポーターの構造に変化が起きると,予期しない毒性や副作用が生じることがある。そこでSNPと薬物動態の関連を明らかにし,システムに反映していくことで,より毒性予測の精度を高めていく狙いだ。1種類のトランスポーターあたりアミノ酸を置換するSNPを10〜20種類解析していく予定で,「遺伝子の差による輸送機能・基質特異性の差を簡便に調べられれば,医薬品の研究開発が大幅にスピードアップする。SNPの影響を受けない薬剤設計も実現できる」(石川氏)と見ている。

(テクノアソシエーツ 笹木雄剛)


記事要点掲載先:日経BP知財Awareness日経BP.JP

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