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染色体DNAをファイバ化する新技術を開発, 京都大学
分子イメージング,エピジェネティクス解析への応用に期待


[2006/03/20]

 染色体からDNAを1本の長い“糸”のようにほどく新技術が登場した。京都大学先端領域融合医学研究機構(HMRO)助教授の加畑博幸氏らの研究チームが開発した「染色体水中ファイバ化技術」である。疾患の発症に染色体がどのように関わっているかなど,染色体解析の精度を大幅に高めることが可能になると言う。
 染色体はDNAやたんぱく質などが凝集して構成されており,染色体解析の際には,染色体からDNAを分離する必要がある。その有効な手段がDNAのファイバ化である。これまでは分離の過程で偶然ファイバ化したDNAを採取・乾燥し,解析していた。そのため,ファイバ化の再現性が低い,採取・乾燥の過程で切れてしまう,DNAの方向を制御できないなど,問題が多かった。
 これに対し今回の染色体水中ファイバ化技術は,DNAのファイバ化を偶然に頼らずにコントロール,ほぼ100%の確率でファイバ化することに成功した。例えば,代表的な染色体解析技術であるFISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)法に組み合わせることで,FISH法の空間分解能を約300倍高めることが可能になる。HeLa細胞(ヒト子宮頸がん由来の細胞)のFISH解析では,「高い分解能で遺伝子の数や配列を可視化できることを確認した。これまで職人的な技術が必要とされたFISH法を,一般的な手技にすることができる」(加畑氏)と言う。今後,研究チームでは,染色体の分子イメージング解析やエピジェネティクス解析(ゲノム配列の変化を伴わない遺伝子発現の制御を解析)などへの適用を目指し,用途開発を強化していく方針だ。

電気浸透流の制御技術でDNAのファイバ化プロセスを制御
 染色体水中ファイバ化技術は,スライドグラスなどの上で細胞や染色体に電気浸透流(界面で生じる荷電層のずり応力)をかけ,DNAをファイバ化する(図1)。DNAは溶液中で,ずり応力の向きに沿ってファイバ化されるため,乾燥せずに切れにくい,方向制御が容易という特徴がある。さらに,電圧の強弱によりDNAのファイバ化を調節することが可能だ。コア技術となっているのは電気浸透流の制御技術で,研究チームでは,新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO技術開発機構)の助成を受け,実用化レベルまで技術を向上した。
 また,DNAは電圧をかけている間はファイバ化するが,止めると凝集してしまう。凝集すると,その後の解析が難しくなる。そこで,DNAと静電的に吸着する光硬化樹脂をスライドグラスの両端に設置,各染色体DNAを1本ずつのファイバ化状態に保てるようにした(図2)。

染色体分子イメージング解析の分解能が300倍に
 再現性の高い染色体ファイバ化技術が確立できたことで,染色体解析の精度,スピードが向上する。具体的には,(1)高速高分解能FISH法,(2)遺伝子欠失・重複・転座の物理長測定解析技術,(3)染色体−たんぱく質相互作用解析技術,などへの応用が想定できる。
(1)に関しては開発を進めており,分解能が従来0.3mm程度(約1Mbp)だったのに対し,今回の技術を適用することで1μm(約3kbp)まで向上することを確認している(図3)。すなわち300倍高精度な分子イメージング解析が可能になるわけだ。「これまで重なって見えていた染色体の異常部位を別々に観察することが可能になる。遺伝子の位置を明確に捉えられるので,高速ゲノム診断へも応用できる」(加畑氏)と言う。
(2)(3)に関しては,今後,開発を進めていく予定を立てている。(2)は,DNAの長さを直接,測定・解析する技術である。例えば,正常細胞と疾患細胞でDNAの長さを比較することで,疾患メカニズムの解明や新たな診断技術の確立へ応用が期待できる。(3)は,染色体上におけるたんぱく質の働きや挙動を解析する技術である。例えば,DNAのファイバ状態を調節することで,染色体上に存在するたんぱく質の活動を解析することができる。「DNAが折れ曲がった状態では動きのないたんぱく質が,DNAが伸びた状態では動き出す。また,その逆の例も報告されている。こうした現象を解析することで,染色体の複製機構や凝集・弛緩機構の解明につながる」(加畑氏)と言う。

共同開発パートナーを募集し,用途開発を強化
 研究チームでは,これらの応用展開以外にも,クロマチン免疫沈降法など幅広い技術への適用が可能と見ている。染色体DNAのファイバ化が可能になることで,染色体の全体像を詳細かつ容易に把握できるからだ。今後の用途開発次第では,ポストゲノム分野として研究が重点的に進められている染色体の分子イメージング解析やエピジェネティクス解析の促進につながる可能性がある。
 また,染色体解析システムの1モジュールとして染色体水中ファイバ化技術を組み込めば,解析の自動化・多検体化も容易になる。こうした背景から研究チームでは,染色体解析を進める研究者や支援する機器メーカーなどを中心に共同開発パートナーを募集している。まずは,基礎研究や創薬研究分野の基盤技術として染色体水中ファイバ化技術の実用化を目指し,中長期的には臨床診断分野への応用を視野に入れている。

(テクノアソシエーツ 笹木雄剛)


図1:染色体水中ファイバ化技術(イラスト)と実際の装置 図2:光硬化樹脂とファイバ化DNA(イラスト)
染色体水中ファイバ化技術(イラスト)と実際の装置図 光硬化樹脂とファイバ化DNA(イラスト)図
図3:染色体水中ファイバ化技術によるFISHの実験例
染色体水中ファイバ化技術によるFISHの実験例図


京都大学先端領域融合医学研究機構(HMRO)からの提案
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オンチップ染色体ファイバによる遺伝子診断の実施に向けた医工連携開発
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【京都大学先端領域融合医学研究機構(HMRO)からの提案】
 ファイバFISH法は,染色体上の遺伝子の分布を一目で判断できるため,遺伝病の診断には最適である。先行技術が発表されているが,技術的課題が未解決であるため医療現場では実用化されていない。HMROチームはこの課題を解決し遺伝子診断への応用の可能性を開いた新しい染色体ファイバ化技術を実現した。この技術は,高額機器に頼った手間暇の掛かるこれまでのクローニング法とは異なり,遺伝子診断のハイスループット化の基礎となり得る。新技術の実用化を加速させるべく,ライフサイエンス,医療,マイクロ加工,マーケティングが融合した研究組織体制を提案する。


記事要点掲載先:日経BP知財Awareness日経BP.JP

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