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企業参入が相次ぐ植物工場
新たなビジネス・チャンスを目指し異業種からの参入も

[2006/08/23]

 光,温度,栄養素といった栽培条件を完全に制御して作物を生産する植物工場への企業の参入が相次いでいる。植物工場のプラント建設支援や技術支援を行うM式水耕研究所によると,この2年間で植物工場に関する引き合いが急増し,すでに10社が試験プラントを導入した。例えば,2005年2月に人材派遣業大手のパソナが大手町の本社ビル地下2階にオープンした展示型農業施設「PASONA O2」にも,M式水耕研究所の植物工場システム(写真1)が導入されている。また,同社のプラントではないが,キューピーやカゴメ,JFEライフなどが植物工場を運営しており,すでに生産物がスーパーの店頭で売られている。

 植物工場は,閉鎖系の環境で水耕栽培を行い,完全無農薬で,栄養価の高い作物を安定的に生産できる。こうした特徴に加え,(1)国民の食の安全・安心に対する関心が高まっている,(2)農地法の改正により農業への株式会社の参入が可能になった,(3)植物工場で光源として利用する発光ダイオード(LED),レーザー・ダイオード(LD)などの技術革新が進んだ,といった背景から植物工場への企業参入が活発化している。
 また,2006年5月には,基準が設定されていない農薬等が一定量以上含まれる食品の流通を禁止する「ポジティブリスト制」が導入され,残留農薬やドリフト(農薬散布時の飛散)への対応要求が高まっている。「閉鎖系環境で作物を生産する植物工場では,残留農薬やドリフトの可能性を限りなくゼロにできる。(この特徴も)ビジネス・チャンスを模索する企業の参入を後押ししている」と,同社代表取締役社長の村井信二氏は指摘する。
 試験プラントを導入した10社は,ゼネコン,エレクトロニクスメーカー,食品メーカーが占める。生産を進めている具体的な作物名は明らかにしなかったが,作物数は15種類程度,その割合は事業者向け作物:約50%,一般消費者向け作物:約30%,その他作物:20%となっていると言う。

作物の安全性,安定性,品質のコントロールが可能に
 植物工場で生産する作物は,(a)安全性,(b)生産安定性,(c)品質が一定で成分含有量が多い,といった特徴を持つ。そのため,露地栽培では克服が難しい細菌数の削減,季節による供給量や栄養価のバラつきを一定にすることができる。もちろん,生産調整も容易だ。現在,サラダ菜,レタス,各種スプラウト類,トマト,イネなどが植物工場での生産が確認されている。「根菜類以外であれば,ほぼすべての作物に適用できる」(村井氏)と言う。
 (a)は,農薬を一切使わずに,細菌数を非常に少なくすることで実現する。植物工場は,エア・シャワーなどで細菌や病害虫の流入をクリーン・ルーム並みに管理できる。そのため,農薬を使用せず,生産した作物は,低細菌である(表1)ことから洗わずにそのまま食べることができる。
 (b)は,光,温度,栄養素を作物ごとに最適化することで実現できる。これにより作物の生育速度,生育期間,収穫量,収穫回数を一定化・最大化できる。そのため,露地栽培のような天候不順による価格の高騰がない。「例えばトマトの場合,野外栽培だと生育期間が7カ月で1本の苗に30個くらい実を付けるが,植物工場では1年4カ月で8000個の実を付けることが可能である。植物が本来持つ潜在能力を引き出すことで,高い生産安定性を実現できる」(村井氏)と説明する。同様にレタスの場合,露地栽培だと収穫回数が1年に2回(二期作)なのに対し,植物工場では約20日に1回の割合で収穫することが可能になる。同社は40年近く水耕栽培の技術開発に携わっており,作物ごとの最適な環境条件や養液組成,栽培方法などを確立している。こうした,いわば暗黙知と呼べるノウハウを植物工場に投入することで,植物の“底力”を引き出すことに成功している。
 (c)は,養液を攪拌することで各苗に栄養を一定的に行き届かせることで,実現する。近年,土壌の疲弊による作物の栄養価の低下が指摘されている。これに対し,水耕栽培である植物工場は,栄養価が高く(表2)かつ安定した作物の生産が可能になる。

幅広い産業界のニーズに合致する植物工場
 これらの特徴は,幅広い産業界のニーズに合致する。例えば,外食産業はその1つだ。植物工場で作られる作物は,洗わないことによる料理の省力化や水道水の経済化,下葉まで使える歩留まりの高さ,食材の安心感向上など,様々な利点・利便性を提供できる。実際,植物工場産のレタスは,コンビニエンス・ストアなどで販売されているサンドウィッチに,サンチュは高級焼肉店の手巻き用野菜として定着している。
 茶飲料や加工食品などを開発する飲料・食品メーカーにとっても,天候などに左右されない安定的な原料供給体制の確立につながる。急な市場ニーズの高まりがあっても,販売機会の損失を防ぐことができる。過去には,抗アレルギー効果が期待できるメチル化カテキンを多く含む茶葉品種「べにふうき」が,ニーズの高まりに供給が追い付かなかった例などがあるが,植物工場なら安定生産が可能でこうした事態を回避できる。

 サプリメントや特定保健用食品(トクホ),医薬品など,高付加価値製品に関しても,植物工場の果たす意義は大きい。例えば,抗酸化物質としてトマトに多く含まれるリコピンなど,ある特定作物に含まれる有効成分を抽出し,それを製品に応用する場合,原料となる作物の安定供給と成分の一定化・含有量向上は,事業戦略のカギとなるからだ。また,今後,遺伝子組み換え技術より特定成分の増産が可能になると見られているが,露地栽培の場合,生態系への悪影響の問題から逆風が強い。そのため,完全閉鎖系の生産体系である植物工場の必要性が高まっている。
 このほか,うまみ成分を多く含むブランド野菜の生産,砂漠や極寒地帯など作物の栽培が難しい地域における生産施設への展開など,植物工場の事業可能性は広範囲にわたる。それゆえに,様々な産業からの参入が盛んになっている。

 アグリビジネスは,今後の成長分野の1つとして大きな脚光を浴びている。その背景には,エレクトロニクスやバイオ,植物生理学など,異分野との融合による技術革新に加え,国民の関心の高まりや規制緩和といった社会環境の変化がある。こうした市場動向の中で,作物の栽培条件を完全に制御できる植物工場は,最右翼の農業技術として大きな可能性を秘めている。

(テクノアソシエーツ 笹木雄剛)



【本記事に関する問い合わせ先】
株式会社 M式水耕研究所
住所:愛知県弥富市坂中地1−37
TEL:0567-52-2401
e-mail:info@gfm.co.jp


写真1:パソナが運営する展示型農業施設「PASONA O2
パソナが運営する展示型農業施設「PASONA O2」 パソナが運営する展示型農業施設「PASONA O2」


表1:植物工場と露地栽培の細菌数の比較(サラダ菜)
  人工光植物工場 補光型植物工場 露地栽培
一般生菌数(/g)
1.0×102
5.9×103
1.0×106
大腸菌群数(/g)
1.0×102
1.0×103
植物工場普及振興会調べ


表2:植物工場と露地栽培の栄養価の比較
作 物 ビタミンA
(カロチン)
ビタミンB1
(サイアミン)
ビタミンB2
(リボフラミン)
ビタミンC
(アスコルビン酸)



A レタス 2,100μg 0.05mg 0.05mg 21mg
B ミツバ 2,300μg 0.02mg 0.06mg 24mg
C ネ ギ 2,100μg 0.05mg 0.11mg 33mg
D サンチュ 2,880μg 0.03mg 0.08mg 16mg
E サラダ菜 2,300μg 0.01mg 0.04mg 27mg

F レタス 130μg 0.05mg 0.12mg 6mg
G 葉ネギ 860μg 0.06mg 0.10mg 33mg
【引用資料】ABCE:東京農大高間総子「キッチン農園」誠文堂新光社刊 D:KN株式会社資料 FG:「四訂」食品成分表
※ミツバ,サンチュ,サラダ菜は,ほとんど水耕栽培品なので,露地との比較はしておりません。

記事要点掲載先:日経BP.JPBiotechnology Japan

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