技術&事業インキュベーション・フォーラム

TOPページへニュースへ連携提案へ注目技術&事業コラムへイベント・セミナーお問合せ


Liイオン2次電池の安全性向上
根本的な解決を図るための新正極材料に注目

[2007/01/10]

 安全性を最優先に考えたLiイオン2次電池の開発が必須になってきている。安全性やエネルギー密度,コストの改善のキー部材は正極である。電池システムの回路上の工夫など対処療法的な手段ではなく,根本的なレベルでの安全性の確保が改めて重要になっている。

根本的な安全対策を採り,応用を車載向けに展開
 2006年はノート型Liイオン2次電池のリコールが社会的な問題になった年だった。電子業界の名だたる一流企業が,リコールに伴う巨額の回収費用によって業績が悪化するまでになった。加えて,Ni-Hなど代替電池と比較して長所は多いが扱いが難しいLiイオン二次電池の安全性が,消費者の関心事にまでなっている。
 これまで,Liイオン2次電池の開発は,エネルギー密度や寿命など製品の訴求点に直結する仕様の向上に重点を置くことが多かった。もちろん電池メーカーが,安全性について軽視していたわけではない。考え得るあらゆる事態を想定し,過剰品質とも思えるような安全性の目標基準を設定し,これをクリアするために電池の構造,材料,製造手法,利用方法など何重もの安全対策を施していた。その上で,高エネルギー密度化を推し進めていたのである。しかしそれでも安全性の不安を取り去ることはできなかった。考えていた以上に安全性に対するハードルを上げる必要が出てきた。
 今後,電気自動車やハイブリッド車など,携帯機器よりも大容量の2次電池を過酷な使用状況下で使う,高度の安全性の確保が求められる応用分野の成長が控えている。もう一度,安全性について抜本的な対策を施したLiイオン電池の開発が不可欠になっている。これまでハイブリッド車では,エネルギー密度で劣り,繰り返しの充放電に伴う容量の低下が起こるNi-H2次電池が電源として利用されている。性能面で劣る電池を利用している理由は,安全性とコストの面でLiイオン2次電池の利用ができないためである。

キー部材である正極に新材料を導入
 Liイオン2次電池の安全性を考える場合,発火や爆発を引き起こす様々な状況を考慮しなければならない。警戒すべき最悪の状況は,電池の温度が上昇して正極からO2が発生し,可燃性の有機電解液を燃やしてしまうパターンである。現在のLiイオン2次電池の多くが使う正極材料である層状岩塩型のLiCoO2は,何の対策も講じなければこの点から充電状態での安全性に根本的な不安がある。このため,電池の構造や利用方法などを工夫して,正極の状態を制御する安全対策を合わせて使用している。高容量化の観点から見れば,層状岩塩型のLiNiO2が最も有利な正極材料である。しかし,安全対策の困難さから実用化されていない。
 こうした最も危険な状況を根本的に回避する方法として,現在のLiイオン2次電池の正極材料を層状岩塩型のLiCoO2からオリビン型のLiFePO4に変える提案が急速に注目を集めている。独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO 技術開発機構)の産業技術研究助成事業による助成を受けて東京工業大学の山田淳夫助教授のグループが開発している。
 LiFePO4の場合,Pを構成元素に含み,酸素原子が強く共有結合した非常に安定な状態で存在する(図1)。このため,温度上昇に伴うO2の発生がない。したがって,O2が発生しにくい状況を維持するタイプの安全対策ではなく,O2発生の可能性自体を無くす安全対策を施すことができる。安全性の観点からはスピネル型LiMnO4という材料もある。しかし60℃以上の高温での化学的安定性に課題を抱えており,充電状態ではやはり高温で酸素を放出するため,LiFePO4ほどの安全性と性能面での品質の確保は期待できない。

図1:オリビン型のFePO4の充電状態での結晶構造
全ての酸素がリンと共有結合し強固な(PO4)3-ポリアニオンを構成している。このため非常に安定しており,温度上昇に伴うO2の放出がない。


新材料を利用する技術体系の確立で新たな事業機会が生まれる
 安全面では大きな長所があるLiFePO4だが,今後改善すべき性能面での課題はある。現状の正極材料と比較して真密度がやや小さく,微粒子の状態で使用するため,電極としての体積エネルギー密度が約2/3(LiCoO2比)と劣る。従来のLiイオン2次電池の開発は従来正極の利用を前提として,電解液,セル・パッキングの技術などを摺り合わせ開発して高性能を実現している。LiFePO4を利用した場合の周辺技術には蓄積がない。逆に言えば,電池メーカーやこの分野への参入を考える企業にとっては,多くの技術開発や事業の機会が生まれる可能性がある。
 パワーに関しては,ナノ粒子化によってある程度体積エネルギー密度を犠牲にすれば,現状と同等以上のスペックを確保できることがわかっている。すでに,米国のベンチャー企業であるA123 Systems社は,パワーが重要な携帯型の電動工具向けの2次電池を開発しこれを搭載した工具を製品化している。使用している電池は重さ70gの26650(25.9mm×65.4mm)サイズで平均電圧3.3V,容量2.3Ah,エネルギー密度220Wh/?, 110Wh/kg,パワー密度は3k-5kW/kgである。
 山田助教授によるとLiFePO4は「サイクル特性は他の材料よりはるかに優れている。また,材料固有の容量をすべて利用でき,全充放電深度で長期安定動作が可能」という。従って,過充電,過放電に対する制約が緩く,長期間にわたって高出力が確保される。ハイブリッド車がこうした利用状況が生まれやすい応用の代表例である。現在,Liイオン2次電池の製造原価のうち,約3割は正極材料が占めている。製造プロセスの改善は必要だが,Fe系の正極は,メタルベースでの原料コストをCo系と比較して1/1000程度まで削減できる可能性を秘めている。また,原理的なレベルでの安全性が確保されているため,安全回路などを含めた電池のシステム全体でのコスト削減に寄与する可能性もある。

電解液共存下での示差熱分析データ
図2:電解液共存下での示差熱分析データ
LiNiO2は充電時の熱安定性が低いことが知られている。このため容量は大きいものの安全性の観点から実用には供されていない。4.2Vの充電状態で,200度付近に酸素放出をともなう急峻な発熱ピークが観測される。これに対し,FePO4(LiFePO4のフル充電状態)は400度まで加熱してもほとんど反応性を示さない。


【ニュースリリースはこちら】
  ・大型リチウムイオン電池実現に光明 [2006年12月07日]
  【テクニカルノートはこちら】
    ・オリビン型燐酸鉄を用いた大型リチウムイオン電池用電極の技術開発に関する意見交換や共同研究の提案 [2006年12月11日]




記事要点掲載先:日経BPMEMS InternationalTech-On!

オープンイノベーション・フォーラム

オープンイノベーション静岡

トピックス
【座談会】安定・潤沢な国産レアアースの利用に、日本の産業界は飛躍の未来を感じている

IoT、大手自動車メーカーが製造ラインに導入約60万円のシステムで不良品の発生を大幅低減

人気記事ランキング(2017年1月-2月)










オープンイノベーションコラム

オープンイノベーション・フォーラム




| 産業イノベーションHOME | 技術&事業インキュベーション・フォーラムHOME |
Copyright (c) 2005-2013 TechnoAssociates, Inc. All rights reserved.

お問い合せ イベントIndex コラムIndex 提案Index ブレークスルー技術Index INTERVIEW Index topへ テクノアソシエーツへ