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SiC半導体の実用化を促進
産総研が高速エピ成長技術を開発
[2007/03/01]


 ハイブリッド自動車や電力系統などの制御に用いられるパワーデバイス向けとして,従来のシリコン(Si)より材料の物理特性にすぐれる炭化ケイ素(SiC)への期待が高まっている。ただし従来,純度の高いSiCを得るには長時間の化学成長プロセスが必要という問題があった。この問題を産業技術総合研究所(産総研)主任研究員の石田夕起氏が解決した。同氏が開発したCVD(化学的気相成長法)炉は,SiCのエピタキシャル成長速度を2ケタ早めることができる。これによって,SiC半導体の実用化が加速される可能性が出てきた。

 地球的課題であるCO2排出量削減問題や,原油価格の恒常的高騰といった情勢の中,さらなる省エネルギー技術の開発が高く望まれている。ガソリン自動車のハイブリッド化,電気自動車・燃料電池車の切り替えなどに,大きな期待がかかるのはそのためである。これらの課題を実現するカギを握るのが,それらの自動車に搭載されるパワーデバイス,すなわちインバータの性能である。ところが,Siを使う現行のインバータは,Siの物性で律速される性能限界がある。そこで,Siの限界をブレークできる技術として物性にすぐれているSiCに注目が集まっている。
 実際,SiCは物性上,Si単体に比べて絶縁破壊耐性などがすぐれているため,PN接合部の半導体の厚みなども削減できる。そのためハイブリッド自動車のインバータの場合,SiC基板を利用することで,理論的には電力損失を1/5にできる。この結果,熱エネルギーの散逸が少なくなることにより,電力部分を水冷する必要がなくなり,インバータ・モジュールの大きさを1/25に小型化できる。これによって自動車設計上,スペースにゆとりが生じるので,快適さ重視の自動車の設計が,きわめて楽になることが期待できる。
 こうした理由から,SiCエピタキシャル基板の実用化が待望されているのだが,低速なエピタキシャル成長装置を用いる現行の製造法には問題があった。つまり,製造に長い時間がかかるため,コスト高となってしまうのだ。その価格差はSi基板よりも3桁高価となる場合もあり,これでは自動車メーカーでは採用でできる価格ではなかったと石田氏は言う。

徹底した基礎研究を重ねて成長阻害要因を解明し,従来法より2桁早いSiC成長を実現
 産業技術総合研究所パワーエレクトロニクス研究センターの石田夕起主任研究員らが開発した技術は,高純度なSiCを,厚さ方向に1時間あたり平均140mm(ミクロン;1mm=1/100万m)という高速でエピタキシャル成長させる技術である。エピタキシャル成長とは,テンプレートとなるSiC基板上に,水素ガスに乗せてシラン(SiH4)とプロパン(C3H8)を流し込み,徐々に化学反応させながら純度の高い基板となるSiCの膜を成長させる技術のことである。従来実用化されているエピタキシャル成長速度は数mm/時間だったので,今回の技術によってほぼ2ケタ速くなったと石田氏は言う。また,成長速度だけではなく,膜厚均一性は3.9%,濃度均一性は8.9%と,こちらも優れた値を示している。
 石田氏らはこの技術の開発に当たり,成長阻害要因を徹底的に解明した。
 「この技術を開発するに当たり,まずSiCのエピ膜成長メカニズムの基礎研究から行いました。その結果,SiCの高速成長を阻害していた最大の要因が,これまで言われていた結晶限界ではなく,気相中での均一核生成であることを突き止めたのです(図1)」(石田氏)。
 気相中の均一核生成とは,基板上でなく水素ガス中でSiとCが反応してしまうことである。これは,気相中のシランやプロパンの濃度が高いほど発生しやすくなり,基板の成長速度を落とす原因となる。そのため,基板上に流し込むシランやプロパンの濃度は一定以上には上げられない。そういう状況下で高速成長を図るには,特定のガス濃度のなかで,反応ガスを効率よく基板上のSiCの成長に寄与させることが重要となってくる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)産業技術研究助成を受け,産総研パワーエレクトロニクス開発センターの石田主任研究員らが開発した「近接垂直ブロー型CVD炉」という技術が,この難問を克服した。
 この「近接垂直ブロー型CVD炉」は,気相中の均一核生成を抑えるとともに,反応ガスの量を増やすことなく,従来,基板上のSiC成長に寄与せずに排出されていたガスの無駄をギリギリまで排除することで高速化を達成した。


新技術を駆使して開発された,近接垂直ブロー型CVD炉で気体使用効率の大幅上昇を達成
 縦型の構造を採用しているこの装置は,水平に置かれた基板に対して垂直に気体を流し込む。今回の開発した装置では,流路管をできるだけ基板近くまで伸ばし,基板の全体を覆うことで気体の使用効率を高めた(図2)。さらに,流路管を基板近くまで伸ばすと,反応ガスの無駄は抑えやすくなる反面,一方で気体濃度の均一性を得るのが難しくなってしまう問題点があったが,これについても対応した。石田氏らの研究グループは,流路の出口から離れた導入箇所で気体の濃度分布や流れパターンを制御し,出口付近での濃度がほぼ一定になるよう,独自の工夫を加えることで,この問題を解決したのである。
 また,こういった「構造上の工夫」や「的確な濃度制御」に加え,「低温下での高速成長」も,この技術の特長だという。基板成長中に局所的に欠陥が生じる場合があるが,これを排し結晶的に均一な膜を得るためには,水素によるエッチング作用を働かせる必要がある。このため,従来法では,1800℃程度まで加熱する必要があったが,今回開発した技術では水素ガスを従来法の数十分の一という低圧で送り込むことによって,水素のエッチング作用を増大させ,1600℃という低温での高速成長を可能とした。
 「高速ということはもちろん重要ですが,今までに報告されている高速成長法に比べ低温であるという点も決して見逃せません。小規模な設備で済み,電力消費なども節約できるからです。また,高温型は水素のエッチング作用により,ウェハーを支える土台まで削ってしまうという問題がありますが,低温型であれば土台への損傷が少なくて済みます。消耗品の交換というのも,実用性を考える上では重要な点です」(石田氏)。

実現した量産性向上の可能性 − 実用化の道を切り開くための共同研究呼びかけも
 エピタキシャル膜の成長が速くなったことは,大きなメリットを生んだ。何より量産性(スループット)が高まった。これで,半導体のコストも抑えられる。そして量産化以前の段階においても,実験・開発速度が向上するメリットもある。また,従来法と比べ,低温でも成長可能というのも大きなメリットだ。
 このように,近接垂直ブロー型CVD炉によるエピタキシャル成長は非常に有望な技術である。「エピタキシャル成長に関しては高いパフォーマンスの技術としてかなり確立できました,そこで今後は,CVD炉メーカーや半導体メーカーのノウハウと組み合わせ,実用化への道を一緒に切りひらいていきたいと思います。」と石田氏はCVD装置メーカーに対して,意見交換や共同開発の呼びかけをしている。
 現在,SiCのCVD炉装置市場は海外メーカーによる寡占状態であり,それらのメーカーの作る成膜装置が技術基準となりつつある。しかし今回の新技術と組み合わせることで,国内装置メーカーにとって新たに参入のチャンスが生まれる可能性もある。日本の産業界が国際競争力を維持・強化するために,日本発の国際技術標準は期待するところである。
 さらにこの技術は,エピタキシャル膜を高速成長させるという用途のほかに,SiC結晶基板作成,さらにはSiC以外の薄膜を作製する際にも使える可能性の高い技術であり,視野を広げた息の長い研究も期待される。

図1:エピタキシャル高速成長の阻害要因
エピタキシャル高速成長の阻害要因
エピ膜高速成長の最大阻害要因は,気相中での均一核生成であることを解明した。

図2:近接垂直ブロー型CVD炉の構造
近接垂直ブロー型CVD炉の構造
流路管を基板近くまで伸ばし,基板の全体を覆うことで気体の使用効率を高めた。

【ニュースリリースはこちら】
  ・炭化ケイ素パワーデバイスのコスト削減を可能に [2007年03月01日]
【テクニカルノートはこちら】
  ・「量産型炭化ケイ素(SiC)高速エピタキシャル成長装置」に関する共同開発の提案 [2007年03月01日]


記事要点掲載先:日経BP.netSiliconOnlineTech-On!


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