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メタボローム解析のデータ処理を4週間から4日に
慶應大 曽我教授が明らかに
[2007/04/02]


曽我朋義氏
慶應大学先端生命科学研究所教授
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ取締役

曽我朋義氏
 ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(HMT)と慶應大学先端生命科学研究所の研究グループが,従来4週間かかっていたメタボローム解析のデータ処理を4日間に高速化した。「データ処理は,メタボローム解析の律速となっていた。約6倍に高速化したことで,解析プラットフォームはほぼ100%完成した」と,同大学教授でHMT取締役の曽我朋義氏は言う。
 メタボロームとは,細胞内の酵素などによって産生する代謝物質(メタボライト)の総称。細胞内には多種多様な代謝物質が存在しており,創薬や食品開発などへの応用が期待されている。
 今回開発した解析ソフトウェアは,サンプルごとのデータ比較解析(ディファレンシャル解析)や代謝パスウェイ(代謝経路)マップの作成などを自動化・高速化し,プラットフォームの解析効率を引き上げた。これにより,疾患マーカーや毒性マーカーの開発の促進が期待できる。また,研究グループでは,未知物質の同定法として人工知能を用いたプログラム開発を進めていると言う。
 薬剤による急性肝炎の血中バイオマーカーを開発するなど,メタボローム解析をリードする曽我氏に話を聞いた。
(聞き手 テクノアソシエーツ 笹木雄剛)


解析装置写真
慶應大学先端生命科学研究所内のメタボローム解析施設。約40台のメタボーム解析装置が並んでいる。
 我々は,キャピラリー電気泳動法(CE)と飛行時間型質量分析法(TOFMS)と組み合わせたCE-TOFMSによるメタボローム解析技術を確立している(関連記事)。これにより1回の測定で数千種類のイオン性代謝物質を検出することが可能になった。
 ただ,検出したデータを解析するのに約4週間かかっていた。バイオマーカーの開発では,例えばマウスや細胞などを使って,薬剤投与群とコントロール群を比較する。両群の間で,有意に変動する物質を探索し,マーカーとして同定していく。この時,各群5サンプル,計10サンプル解析する場合,各サンプルから約2000種類の代謝物が検出されると,2000×10サンプルを比較・検証する必要がある。それぞれのサンプルの質量ピーク面積の計算やノイズ除去,ピークマッチング,ディファレンシャル解析などを行い,有意な変動を示す代謝物を探索していく。
 これらのデータ解析は,これまで手作業で行っていたため,時間がかかっていた。計算ミスやデータの取り違いなどのヒューマンエラーを誘発する要因にもなっていた。

今回,自動化・高速化して,4日間での作業を実現したわけですね。
 大まかな流れは,CE-TOFMSのデータから質量ピーク面積の計算が1日,ピークマッチングや代謝物の標準物質データベースとの照合によるアノテーション,CEの移動時間補正などが1日,代謝パスウェイマップの作成やディファレンシャル解析,統計解析が2日という計算となっている。
 検出した代謝物がどのようなパスウェイを示すかを視覚的に表示する「CellWorkspace」(写真1)や変動のある代謝物を視覚的に表示する「メタボローム・ディファレンシャル・ディスプレイ」などのソフトウェアを開発した。開発の一部は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の助成を受けている。

写真1:「CellWorkspace」による代謝パスウェイの視覚化
「CellWorkspace」による代謝パスウェイの視覚化

実際のバイオマーカー開発はどこまで進んでいるか?
 2006年の4月に,薬剤による急性肝炎の血中バイオマーカーを発見した論文を発表した。マウスに解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェン(AAP)を投与して,肝臓の代謝物の変化を調べた。その結果,グルタチオン(GSH)が減少する一方,未知の物質が増加することが分かった。
 それぞれのMS/MSスペクトルを測定したところ,未知物質はGSHに対して17.96ほど質量が減少していた。この変化を検討した結果,分子量32.980のSH基がとれて,分子量15.023のCH3基がつくと,その差が17.957となることに気付いた。
 その物質をオフタルミン酸と推定し,スイスから試薬を取寄せて測定した。未知物質とオフタルミン酸のCEの移動時間とMS/MSスペクトルが一致したため,未知物質はオフタルミン酸であることが分かった。
 次に,オフタルミン酸の生合成経路の検討も行った。その結果,GSHと共通の2種類の酵素で合成されることが確認できた。最初の酵素は,肝臓内にGSHが十分存在すると活性が阻害される(フィードバック阻害)。しかし,AAP投与により肝臓内の酸化物質が増えると,GSHはこれを除去するために消費され,フィードバック阻害が解除される。酵素活性が高まり,GSHとともにオフタルミン酸が合成されるようになる。オフタルミン酸は酸化物質と反応しないため,血中に移行される。
 実際,AAP投与後1,2時間後,血清中のオフタルミン酸が急増することをマウスで確認した。つまりオフタルミン酸は,AAPなどの薬剤による急性肝炎のバイオマーカーとなりうることを示している。
 また,これ以外にも,複数の研究機関との共同研究でバイオマーカーの探索に成功している。医療分野だけでなく,食品や環境分野でも研究が進んでいる。

今後のメタボローム解析の方向性は?
 解析技術の方向性として未知物質の同定法の開発が1つのカギになるだろう。未知物質の同定には標準物質が必要だが,KEGG(生命システム情報統合データベース)に登録されている約1万種類の代謝物の内,標準物質を入手できるのは2200種類。残りは,手に入らない。すでに,2200種類は入手したが,他の代謝物は1から合成しなければならない。
 オフタルミン酸は,たまたま17.96の質量差に気付いたが,やはりコンピュータによる予測プログラムを確立する必要があると考えている。現在,人工知能の1つである「Artificial Neural Network」を使って,物質の構造とCEの移動時間から未知物質を同定するプログラムを開発している。このプログラムが完成すれば,メタボローム解析は大きく前進するだろう。今後,2年以内での完成を目指している。


記事要点掲載先:日経BP.netBiotechnology Japan


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