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2009年2月6日
 
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
九州大学

正常細胞にダメージが少ない新しい抗がんタンパク質を開発
‐ 微生物毒素『パラスポリン』がヒトのがん細胞を優先的に攻撃する ‐


 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として,九州大学大学院理学研究院の北田 栄 助教は,福岡県工業技術センター生物食品研究所との共同研究で,微生物毒素を利用し正常細胞に影響の少ない新しい抗がん治療の基盤技術を開発しました。人畜に無害な微生物Bacillus thuringiensis (Bt菌)の中に存在する毒素タンパク質(パラスポリン)が哺乳類動物由来の細胞を特異的に認識して破壊する特性を,がん治療に活用する試みです。
 年々増加している大腸がんの治療方法として,現在,主に内視鏡による摘出手術が用いられています。摘出後にパラスポリンを局所投与することで,万が一,未摘出のがん細胞があっても,これを効果的に死滅させ,がん再発や転移を防ぐ効果が期待できます。従来の低分子抗がん剤(注1)に比べて,がんに親和性の高いこの毒素抗がん剤では投与量を数千から数万倍少なく抑えられます。白血病の患者は,免疫適合者が見つかるまで抗がん剤の副作用に苦しめられますが,パラスポリンが正常白血球に比べ約2桁白血球がん細胞に有効な毒性を示すため,既存の抗がん剤の投与量を抑えてパラスポリンを併用することで副作用が激減すると期待されます。
 今後,このパラスポリンの毒素を利用して,がん標的治療やがんの可視化,薬剤デリバリー技術の確立を目指し,民間企業との意見交換や共同開発を行っていく予定です。

図1 微生物Bacillus thuringiensis(Bt菌)の電子顕微鏡写真
図1 微生物Bacillus thuringiensis(Bt菌)の電子顕微鏡写真
Bt菌は土壌,植物葉上,河川といった自然環境に一般的に偏在する細菌です。芽胞(注2)形成(左図の↑)と同時に毒素タンパク質を含む凝集体(図の↓)を産生します。この凝集体が昆虫に食下されると,消化液で毒素前駆体が活性化され,腸管上皮細胞を激烈に破壊し,感受性をもつ対象昆虫を特異的に殺します。逆に,非感受性の昆虫や人畜への影響は認められていません。このため生物農薬として広く使用され,現在は毒素遺伝子(Cry)が組み換え遺伝子作物に組み込まれています。最近になって,殺虫性を示さないBt菌から哺乳動物細胞に作用する新しい毒素パラスポリンが発見されました(注3)

(注1)
天然物や化学合成分子。アポトーシスを引き起こすことが多い。正常細胞にも影響を与えやすいため副作用が生じる。
(注2)
一部の細菌が形成する,熱・乾燥・消毒薬等に極めて耐久性の高い構造。環境条件が整えば元の細菌となる。
(注3)
Mizuki, E., Park, Y. S., Saitoh, H., Yamashita, S., Akao, T., Higuchi, K. and Ohba, M. (2000) Parasporin, a human leukemic cell-recognizing parasporal protein of Bacillus thuringiensis. Clin. Diagn. Lab. Immunol. 7, 625-634


1.背景及び研究概要
 現在がんの治療法として,大きく外科治療(手術),化学療法(抗がん剤投与),放射線療法の三つがあげられます。しかしながら,手術によるがん細胞の摘出は,がんの完全摘出すなわち根治手術を理想としますが,転移により摘出できなかった部位からがんが再発することも多く,また一定以上がんが進行していると根治手術は難しくなります。抗がん剤による治療は,正常な細胞にもダメージを与えてしまうため,吐き気,嘔吐,倦怠感,食欲不振,機能障害などの副作用を引き起こすことが問題となっています。放射線治療は,がん細胞の周囲にまで放射線が及びます。正常な細胞も損傷を受けるために,機能障害や後遺症を引き起こすことが問題となっています。いずれの方法においても患者にとって肉体的・精神的負担が大きく,その後の「生活の質(QOL)」にも大きく影響をきたします。そこで,微生物Bt菌が作り出す毒素タンパク質の哺乳類由来の動物細胞を特異的に認識し破壊する特性に注目し,正常細胞への影響を極力抑え,がん細胞を優先的に攻撃する基礎的抗がん技術を開発しました。
 Bt菌は,1901年に蚕の病原微生物として日本で発見されました。その後,Bt菌体内の結晶状に凝集し封入されたタンパク質が特定の昆虫のみに殺虫活性を示し,人畜や環境に影響を与えないことが明らかになっています。この毒素はCryと呼ばれるタンパク質から主として構成され,これまでに500種近くの遺伝子が報告されています。我々は,この中でヒト由来の特定がん細胞に特異的な破壊機能を示すCryファミリーを発見し『パラスポリン』と命名しました。なかでもパラスポリン2は他の強力な細胞溶解毒素に比べ,マウス血中投与で約1万倍低い個体毒性しか示しません。ヒトの摘出がん組織への作用では,がん部位に強い障害性が認められますが,周辺正常組織にはほとんど影響がありません。

2.競合技術への強み
 開発したパラスポリンには次のような特徴があります。
(1)
がん細胞のみを優先的に攻撃し,正常な細胞には影響を及ぼしにくい 大腸がんは現在,内視鏡による摘出が治療の主流となっていますが,摘出後にパラスポリン剤を局所投与すれば,残余がんを毒素タンパク質の高いがん親和性で効果的に死滅させます。周辺の正常な細胞には害を及ぼすことは殆んどないと考えられます。低分子抗がん剤に比べその効果は高く,投与量は数千から数万倍少なく抑えることが可能になります。
(2)
既存の抗がん剤投与量を激減させ,副作用を最大限抑制 白血病の患者は,免疫適合者が見つかるまで抗がん剤の副作用に苦しめられます。パラスポリンは正常白血球に比べ約2桁白血球がん細胞に有効な毒性を示すことから,パラスポリン併用療法により既存の抗がん剤の投与量を抑えて副作用を抑えることが期待されます。


 表1 パラスポリンと他の抗体医薬等との比較表
表1 パラスポリンと他の抗体医薬等との比較表



3.今後の展望
 今後,このパラスポリンの毒素を利用して,がん標的治療やがんの可視化,薬剤デリバリー技術の確立を目指し,民間企業との意見交換や共同開発を行っていく予定です。大腸がんは食生活や生活習慣の欧米化による便秘などが原因とも言われています。将来的にはパラスポリンを食品に加えたり,サプリメントにしたりして,がんを予防する開発も検討する予定です。

4.その他
(1)研究者の略歴
1991年九州大学理学部化学科卒業,1993年九州大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了,1996年九州大学大学院理学研究科化学専攻博士後期課程単位取得退学,1997年博士(理学)取得 (九州大学),1996年〜九州大学大学院理学研究院化学部門生体情報化学研究室 助教
(2)受賞
第5回柿内三郎記念研究助成(平成20年)
武田科学振興財団 一般奨励研究 (平成19年)
倉田記念日立科学技術財団 第39回倉田奨励金(平成18年)
九州大学教育研究プログラム・研究拠点形成プロジェクト(平成18年〜19年)


5.問い合わせ先
(1) 技術内容について
  九州大学大学院理学研究院化学部門 生体情報化学研究室 助教 北田 栄
  TEL&FAX: 092-642-2605  E-mail:メールアドレス
  研究内容HP: http://homepage2.nifty.com/you-know-me/ppp/index.html
九州大学 生体情報化学研究室パラスポリン&アンチキャンサーユニット
(九州大学P&Pプロジェクト)
(2) 制度内容について
  NEDO技術開発機構 研究開発推進部 若手研究グラントグループ
  岸本,松崎,千田,長崎
  TEL:044-520-5174   FAX:044-520-5178
個別事業HP:産業技術研究助成事業(若手研究グラント)



【提案書】
  ・九州大学理学研究院化学部門からの提案
正常細胞に影響の少ない微生物毒素とその受容体を利用した新しい標的がん治療技術に関する提案 [2009年02月09日]






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