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船舶のCO2排出量削減の切り札
実用化が進む翼の負圧を利用した摩擦低減技術


[2009/03/02]



 北海道大学大学院工学研究科准教授の村井祐一氏とランドエンジニアリングが,共同で開発している船舶の摩擦抵抗低減技術の実用化が進んでいる。同技術は,翼の負圧を利用して水面下の船体表面で気泡を発生させて船舶と海水との摩擦抵抗を低減させる技術である(図1)。2008年6月には同技術を装備した貨物船が運航を開始し,今年に入ってからも新たな船舶が運航されるなど,着実に実用化が進んでいる。

 現在,地球温暖化防止対策で自動車のCO2排出量削減技術が注目を集めている。その一方で船舶のCO2排出量の削減には,大きな効果を期待できる有効手段がほとんどなかった。村井氏とランドエンジニアリングが開発した技術は,フェリーの通年実験により燃費が10%程度向上したことが実証されている。今後,船舶のCO2排出量削減の切り札として同技術が注目を集めるものとみられる。

図1:翼の負圧を利用して船底で気泡を発生させて船舶と海水との摩擦抵抗を低減させる技術の概要
  図1:翼の負圧を利用して船底で気泡を発生させて
      船舶と海水との摩擦抵抗を低減させる技術の概要



実用化のカギは,水面下の船体表面で安価に気泡を作り出せたこと

  船舶が航行する際,船舶が海水から受ける抵抗は主に二つある。造波抵抗と摩擦抵抗である。
 前者は,船首が水面を掻き分けて進む時の波によるエネルギー損失である。このエネルギー損失はバルバス・バウと呼ぶ構造の採用によって大きく低減された。バルバス・バウは船首の水面下に丸く突き出た構造物で,船首が水を掻き分ける前方にあらかじめ波を生じさせる。発生した波は船首が水を掻き分けて進む時に生じる波とは逆位相となる。それぞれの波の山と谷が打ち消し合うことで発生する波の大きさを小さくでき,造波抵抗によるエネルギー損失が抑えられる。バルバス・バウによって,船舶が受ける全抵抗の約30%を低減できたという。この技術の歴史は古く,第二次世界大戦中に建造された戦艦大和などで実用化されていた。
 これに対して後者の摩擦抵抗に関しては,水中翼船などの開発はあったものの,タンカーなどの大型船舶に実用化でき,しかも大きな効果を期待できる有効手段はほとんどなかった。
図2:開発したWAIP
  図2:開発したWAIP

 今回,村井氏とランドエンジニアリングが開発した技術は,WAIP(Winged Air Instruction Pipe)と呼ばれる(図2)。WAIPは,翼の負圧を利用し,航行中の船舶の水面下の船体表面から高効率に気泡を発生させ,船舶の摩擦抵抗を低減させる技術である。その原理は次のようなものだ。

 水面下で翼を水平に走らせると,下流に窪みが発生する。翼に迎角を付けると,一定角度までは(二相流としての剥離が発生する直前まで)窪みが増大する。図3のように空気の誘導路(パイプ)を設けて,この現象を水面下の船体表面で実現させると,理論的には大気圧のまま一定の深さまで空気を船底に導引することができる。導引された空気が下流に流されるとき,渦巻状の流れを作るK-H(Kelvin-Helmholtz)不安定により界面がちぎれ,微小気泡として放出される。放出された微小気泡が水面下の船体表面を覆い,船と海水との摩擦抵抗を低減する。ただし,喫水が深い場合には,船の航行速度だけで水面下の船体表面にK-H不安定を作り出すことは難しい。このためコンプレッサなど,誘導路内の気圧を上げて気液界面を翼の上部まで下げる補助装置が必要になる。
 これまでにも,気泡を使って船舶の摩擦抵抗を低減する技術は開発されてきた。ところが,気泡を発生させるのに必要なエネルギーが,摩擦抵抗の低減によるエネルギーと同等かそれ以上大きいため,実用化には至らなかった。WAIPはベルヌーイの定理とK-H不安定によって小さいエネルギーで水面下の船体表面に微小気泡を発生させることができる。それによって初めて気泡を使った船舶の摩擦抵抗低減技術の実用化が可能となった。

開発を担当したランドエンジニアリングは,WAIPの特徴は三つあるという。
 第1はK-H不安定という物理現象を利用して,水面下の船体表面で摩擦抵抗低減に必要な超微細な気泡を安価に作り出せたこと,第2は発生した気泡が翼の働きで水面下の船体表面から離れることなく,船体全体を覆うことができたこと,第3は何個のWAIPを水面下の船体表面のどこに取り付ければ,どの程度の効果があるかを計算できたことだ,と同社は説明する。

図3:翼の負圧を利用し,船底の摩擦抵抗を低減する技術の概略図
  図3:翼の負圧を利用し,船底の摩擦抵抗を低減する技術の概略図


約10年の実験を通して実用化へ

 WAIPの開発の歴史は長い(図4)。実用化に向けた実験が始まったのは1999年のことである。「喜久丸」という全長11.2mの船にプリズム状の抵抗体を取り付け,船の航行速度で抵抗体の後ろの静圧が負圧になり大気を吸引できることを確認した。
 その後2001年〜2002年にかけて,西日本流体技研の高速回流水槽を使った実験から噴出し口の形状を,現在のWAIP型に決定した。2002年12月には,2個のWAIPを装備した全長12.62mmの「Adventure 2」を使って4%以上の効率改善効果を確認した。その後さらにWAIPの形状を改良し,2005年2月にフィリピンのセブ島で就航していた「Santander Ferry 1」を使って直接燃料消費を計測することで15%弱の効果を実証している。2005年9月に,「ニューフェリー美咲」を使ったコンプレッサ搭載WAIPの実験により開発が完了する。2008年6月には,WAIPを装備した全長85mの貨物船「Filia Ariea」が運航を開始し,実用化がスタートした。

  図4:WAIPの実験の歴史を語る船舶
全長11.2mの「喜久丸」
全長28.8mの「Santander Ferry 1」
全長11.2mの「喜久丸」

全長28.8mの「Santander Ferry 1」

全長68mの「ニューフェリー美咲」
全長85mの貨物船「Filia Ariea」
全長68mの「ニューフェリー美咲」
全長85mの貨物船「Filia Ariea」


 「大型のコンテナ船(搭載コンテナ数約6000個)では一日に200トンの重油を消費する。その20%が削減できれば40トンの重油削減につながる。CO2換算で約120トン(約8万世帯の一般家庭1日の排出量に相当:「MTIの環境・省エネ技術」のCO2の排出量削減に相当する)(WAIPの開発を担当したランドエンジニアリング)。

 今後,地球温暖化防止に向けた船舶のCO2排出量削減技術としてWAIPの普及が期待される。


お問い合わせ
株式会社 テクノアソシエーツ
E-mail : info@technoassociates.com




【関連情報】
  ・翼の負圧を利用して船底で気泡を発生,摩擦抵抗を低減し,燃費を約10%向上(2009年2月5日)



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