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2010.2.17
 
国立大学法人 山口大学

薬物とステントグラフトの画期的なハイブリッド治療デバイスを開発
‐ 患者個人毎に最適な薬物局所投与を実現し,低侵襲に大動脈瘤を治す ‐


 NEDOの産業技術研究助成事業の一環として,山口大学医学系研究科器官病態外科学の吉村耕一講師らの研究グループは,再充填可能な薬剤徐放性ステントグラフト(注1)による大動脈瘤(注2)の革新的治療法を考案し,その基盤技術の開発に成功しました(特許出願中)。ステントグラフト体内留置後の薬剤充填・再充填を可能とすることで,患者毎に経過中最適な薬剤の種類,量,徐放期間を調節できるようになり,従来のグラフト置換手術よりも低侵襲で,ステントグラフト内挿術よりも有効な大動脈瘤治療法になると考えられます。大動脈瘤ステントグラフトのみならず,冠動脈ステントを含む全ての体内留置医療デバイスの安全性と有効性を薬剤併用によって高める画期的なハイブリッド法として期待がもたれます。

図1 「再充填可能な薬剤徐放性ステントグラフト」の概略図
図1 「再充填可能な薬剤徐放性ステントグラフト」の概略図
薬剤内包の標的認識ナノ担体は,血中からステントグラフト上に結合・充填されます。担体の生分解により薬が瘤壁へ徐放され,大動脈瘤の治癒を促進します。その後,ステントグラフト上の標的分子は再生され,再充填可能となります。

(注1)
ステントグラフトとは,グラフト(人工血管)に金属性ステントを縫着したものです。ステントグラフト内挿術は主に大動脈瘤の治療に用いられています。血管内にステントグラフトを挿入することによって瘤壁への血流負荷を軽減し,大動脈瘤の破裂を予防するものです。
(注2)
大動脈瘤は,大動脈が限局的に脆弱化して拡大し,こぶ状に膨らむ疾患です。無症状に進行し,破裂すると突然死に至ります。従来の治療法は,(1)確実ですが侵襲の大きいグラフト置換手術,(2)低侵襲ですが再発が懸念されるステントグラフト内挿術しかないため,新たな治療法が切望されています。


1.背景及び研究概要
 大動脈瘤は,高齢者男性の死亡原因の上位にランクされる重大な疾患です。現在,ステントグラフト内挿術が従来の瘤切除グラフト置換手術に代わる低侵襲な大動脈瘤治療法として普及しつつありますが,瘤が残存するため遠隔期の再発の危険性が深刻な問題となっています。薬物療法との併用がこの問題点を克服する手段として期待され,最近の基礎的研究から大動脈瘤の病態改善薬がいくつか明らかにされましたが,大動脈瘤に対する薬物療法は未だ確立していません。その主な理由の一つは薬剤の全身投与による副作用と考えられています。したがって,標的の大動脈瘤組織に対する薬効を向上しつつ全身副作用を軽減するような薬剤投与法を開発することが,安全で有効な新規治療法を実現するための鍵となります。
 そこで,吉村講師らの研究グループでは,生体内で再充填可能な薬物送達システム(RDDS: Rechargeable Drug Delivery System)を発案し,大動脈瘤治療用のRDDSステントグラフト治療システムを開発しています。この治療システムは,人工的な標的分子を表面に備えたステントグラフトとその標的分子を認識・結合する薬剤内包ナノ担体から構成されます(図1)。実際には,既存のポリエステル人工血管表面にビオチンとさらにニュートラビジンを結合させて標的化グラフトとし,これを認識するナノ担体として,ビオチン化バイオナノカプセルーリポソーム融合体を作製しました。大動脈瘤治療薬剤としては,吉村講師らがマウス大動脈瘤モデルで顕著な有効性を実証したJNK阻害剤とヒト大動脈瘤壁での病態改善効果が示されたHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)を候補とし,ナノ担体への封入に成功しました。さらに,マウス血管内に標的化グラフトを留置した後に標的認識ナノ担体を静脈内投与し,グラフトへの薬物送達が高効率に可能なことを生体において実証する等して,RDDSの基盤技術を確立しました。
 本治療システムは,あらかじめ薬物を装填した薬剤徐放性デバイスとは異なり,経過中必要な時に必要な種類の薬剤を必要な量だけ充填し徐放できるため,患者個人毎に最適な治療を可能にします。また,RDDS技術は大動脈瘤治療用に限定されず,全ての体内留置医療デバイスへの薬物送達に応用可能です。例えば,冠動脈狭窄(狭心症,心筋梗塞)において再狭窄予防を期待して実用化された薬物溶出性ステントでは,薬剤溶出の期間調整が難しく再内皮化障害の副作用が問題となっています。しかし,RDDSを応用した冠動脈ステントであれば,必要な期間だけ再狭窄予防剤を投与し,必要に応じて再内皮化促進薬投与への変更も可能であり,理想的な治療法になり得ると期待できます。また,体内留置医療デバイスは常に細菌感染の危険性を孕んでおり致死的な敗血症に至ることもあります。抗菌薬を利用すれば,この予防・治療法開発にもRDDSの技術は応用可能です。このように,RDDS技術の応用範囲は広く,より安全で有効な医療デバイスの研究開発に結びつくものと大いに期待されます。


2.競合技術への強み
この技術には,次のような強みがあります。
(1)
他の治療法・技術より低侵襲かつ有効
従来のグラフト置換手術に比べ低侵襲で,残存瘤の再発を薬剤で防止できる点でステントグラフト内挿術に比べ有効な大動脈瘤治療法です。局所投与できる点で薬剤の全身投与法より,患者個別化治療が可能な点で単なる薬剤徐放性ステントグラフトより,安全で有効と考えられます(表1)。
(2)
患者個人にあわせて最適化可能
標的認識ナノ担体に封入する薬剤の種類,量,徐放期間が調整可能で,投与開始時期も任意に設定できます。患者個別化治療に繋がる画期的な薬物送達技術です。
(3)
体内留置医療デバイスへの幅広い応用
全ての体内留置医療デバイスへの臨機応変な薬物送達を可能にする技術です。既存の問題点を薬剤の効果で解決することで,より安全で有効な医療デバイスの開発に結びつくと考えられます。


表1 本技術とその他の大動脈瘤治療法との比較表
表1 本技術とその他の大動脈瘤治療法との比較表


3.今後の展望
 今後,研究グループでは,RDDSステントグラフト治療システムの実用化を目指して,臨床レベルの製品仕様策定を各種企業との連携を通じて進めて行きます。特に,医療機器企業には標的化ステントグラフト開発について,製薬企業には治療薬剤について意見交換・技術交換・共同開発を提案します。ステントグラフト以外の体内留置医療デバイスについての意見交換・技術交換・共同開発も提案します。


4.研究者(吉村耕一講師)の略歴
1988年 山口大学医学部医学科卒業,
1993年 山口大学院医学系研究科博士課程修了
1997年 米国ニュージャージー医科歯科大学留学
1999年 山口大学医学部寄附講座・教員
2005年 山口大学医学部・助手
2007年 山口大学医学部・講師
2009年〜 山口大学医学系研究科・講師

2007年 平成19年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞受賞


5.共同研究者
 青木 浩樹 (久留米大学 循環器病研究所 准教授) 
 堤 宏守 (山口大学 大学院医学系研究科 教授) 
 黒田 俊一 (名古屋大学 大学院生命農学研究科 教授)


6.お問い合わせ先
<本プレス発表の内容についての問い合わせ先>
  山口大学大学院医学系研究科 器官病態外科学 講師 吉村耕一
  TEL: 0836-22-2261  FAX: 0836-22-2423 
E-mail:メールアドレス
<NEDO制度内容についての一般的な問い合せ先>
  NEDO 研究開発推進部 若手研究グラントグループ 鈴木,岸本,松ア,千田
  TEL 044-520-5174   FAX 044-520-5178
  個別事業HP:産業技術研究助成事業(若手研究グラント)


【提案書】
山口大学大学院医学系研究科からの提案
大動脈瘤低侵襲治療のための革新的ハイブリッドデバイスシステムの開発に関する提案





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